2017年4月8日

ヒマラヤで出会った人たち


 ヒマラヤ山中で、底冷えする夜が明けた。

宿でチヤパティと卵の朝食。隣では、ひとり旅のイスラエル女性と地元青年が話している。

「私はユダヤ人。ユダヤ人ってわかる?」

「え~っと・・・・・・パレスチナ人?」

ミルクティーを吹きそうになった。

あわてて振り返ると、イスラエル女性は「Nooooooo!」と言いながらも、顔が笑っている。

歴史的にはともかく世界地図では、ネパール青年の答えも×ではない。

別の村で同宿した、アルゼンチンの若いカップル。故郷コルドバからネパールまで遥かな道のりを、アフリカを回って来たという。地図で見たら、確かにアフリカ経由が近い。それでも地球の反対側。はるばるよく来たものだ。

顔中毛だらけのフランス男性。長旅で底が抜けてしまった登山靴を、ひもでグルグル巻きにして歩いている。これから徒歩1週間の道のりを「これで歩く」。去年は四国遍路をしたという。仕事はパリのファッション写真家。

このランタン谷は、2015年の地震で大きな被害を受けた。やっとトレッカーが戻り始めた段階と聞いていた。いざふたを開けてみたら、道中は欧米人で大にぎわい。途中、村のロッジは満員になった。

山が好きなら一度は行きたい、ヒマラヤ・トレッキング。飛行機を乗り継いで10数時間、最低でも10日から2週間の休暇がいる。日本で働く限り、簡単には来られない。ガイドを雇えばお金もいる。

今回のトレッキング中に出会った日本人は2人。ほかに見かけたアジア系は、韓国の単独行者だけ。圧倒的に白人が多かった。

日本人のひとりは20代の男性。外資系で働いているが、それでも休むのが難しい。「高橋まつりさん」(電通新人社員過労自殺事件)のおかげで社内の空気が変わり、やっと休暇が取れたという。

現地旅行社の話では、日本人トレッキング客のほとんどは定年退職後の高齢者。それに比べて、地理的にもっと離れたヨーロッパや北米、さらには南米から、老若男女あらゆる世代がネパールまでやってくる。

出会った彼らはクリエイティブ系からブルーカラーまで、職業もいろいろだった。彼らの国では、当然のように長期休暇が認められている。

第2次大戦中のドイツ軍兵士は、作戦中でも休暇を取っていたという。戦争でも休む。負けそうでも休む。「神風特攻隊」「玉砕」の国との、この差は何だ。

 帰国したら、国内でも「働き方改革」が進められていた。期待して新聞を開くと、青天井だった残業時間に上限を設けようという程度の話。

 この国は、100年遅れている。

日本人が気軽にヒマラヤを歩ける日は、いったいいつ来ることやら。





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