新しく買ったスマホの、呼び出し音が鳴り続ける。
3回、4回、5回。
画面を懸命に押したり叩いたり、でもどうしても出られない。
7回、8回、9回・・・
ついにスマホは沈黙した。
スマホには、前からトラウマがある。
サラリーマン時代、会社が金をケチって、型落ちスマホを社員に配った。アッ〇ル製品の洗練にはほど遠い、直感では使いこなせない代物だった。なにしろ取材先に電話するだけで、いくつもの手順が必要なのだ。
そして大事な業務連絡は、すべてこの性悪スマホでやってくる。とてもスタッフを大切にする組織とは言えない。
ちなみに先日、属している福祉系NPOの新年会があった。これまでの飲み会では、申し訳程度に会費を集めていた。今回、ついにタダになった。ゼロ円。
とてもスタッフを大切にする組織である。
例の会社を辞めたとき、すかさずガラケーに戻して、平穏に暮らしていた。ところが、夏の住まいを長野の山中に移したら、ケータイが圏外で通じない。
会社を辞めて2年、「2年縛り」が解けるこの機会に、キャリアを変えることにした。「格安スマホ」なら、毎月の通信費も大手ガラケーと大差ないという。
甘言に乗せられて、韓国製スマホと格安SIMを購入。電話番号が引き継がれて、愛用のガラケーは瞬時に成仏した。
新しいスマホから、妻にかけてみる。ところが発信しようとすると、IDとパスワードの入力画面が出てくる。
設定した覚えがない。両方わからないから、つながらない。いきなり困った。
家の電話から「お客様相談窓口」にかけると、録音音声が「電話が混みあっております。待ち時間は30分以上」と告げる。もうすぐ夜。営業時間が終われば、私は明日まで音信不通だ。
仕方ない。30分待つ。相手の指示に従って、不要なアプリを削除する。とりあえず、IDとパスワードを求められることはなくなった。
そうこうしているうち、記念すべき最初の着信があった。
・・・押しても叩いても、どうしても出られない。
トリセツを読むと、電話に出るときは「タップ」ではなく「スワイプ」せよと書いてある。なに、指を滑らせよ? 試しに妻のケータイからかけてもらうが、私の「スワイプ」は、機械に反応してもらえない。
千本ノックの末、やっと最近、電話に出られるようになった。
これもひとつの才能だ。
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