2016年11月16日

異国の幽霊


 日本語ボランティアを名乗って2年。夜の市民会館を舞台に、英、印、印尼、中、台、露、比、伯、エルサルバドル等の方々に、1対1で我流日本語を伝授してきた。

先週は生徒のベトナム人から、なかなかゾッとする話を聞いた。

 彼女は霊感が強い。そして悪いことに、アパートの前が病院である。

 シャワーを浴びる水音で、夜中に目覚めた。

その音は、自分の部屋のバスルームから聞こえてくる。

 身を固くしていると、今度はトイレの水を流した。

 ・・・たしかに誰かいる。

 日本語らしき言葉で、独り言をつぶやいていたという。

 彼女は気配を感じるだけだが、故郷の兄はさらに霊感が強く、「見て」しまうことがあるらしい。

 彼女は最初、「日本語検定の文法を教えて」と希望してきた。にわかボランティアの悲しさで、文法を教える技術はない。内心困っていたら、大丈夫だった。

 小学生の時、両親が離婚したこと。技能実習生として来日し、従業員20人の町工場で働いていること。節約のために卵とキャベツばかり食べて、5キロやせたこと。日本で3年がんばった後は、オーストラリアに行きたいこと。

テキストには目もくれず、つたない日本語で一生懸命、身の上を話してくれる。90分間、相槌を打っているうちに終わった。

年ごろなのに「今の給料では結婚相手に負けるから」、当面は独身でいるそうだ。ベトナム女性はみな、この人みたいに自立心が強いのだろうか。

 別の日の生徒は、台湾出身。2年前に死別した夫とのことを話してくれた。

 口の悪い人で、いつもバカバカ言われ続けた。最初に覚えた日本語が「バカ」。でも彼女ががんで入院すると、毎日見舞いにきた。夫が亡くなる時、言葉が不自由で、感謝の気持ちを伝えられなかった。それが心残り。

「てにをは」のめちゃくちゃな日本語で、涙ながらに語る。気持ちはご主人にも、十二分に伝わっていただろう、と想像した。

 この関東平野の端に、世界中から人が来ている。

欧米や、将来性のある中国でなく、この
日本に来て日本語を学んでくれる。

ただただ、感謝しかない。

そして会の日本人ボランティアは、真面目な人が多い。きちんとテキストに従って教え、生徒の日本語検定合格を生きがいにする人もいる。

私は不真面目。しょせんはボランティア、自分だって楽しみたい。学習意欲の旺盛な人は敬遠して、友だちが欲しい人、日本語でおしゃべりしたい人を探す。そして、雑談に持ち込む。

フランスとタイで10年も暮らしながら、仏語もタイ語もカタコト以下で終わった語学音痴だ。自分の母語でできる異文化交流が、とても楽しい。



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