2025年3月28日

カフェテリア点描

 

今年のセブ島英会話学校には、カフェテリアが併設されている。

朝ごはんは「コーンフレークと菓子パン」とか「コンビーフとご飯」とかのしょうもないメニュー。でも昼と夜は5~6種類のおかずがビュッフェ形式で並ぶ。味はともかく、肉と野菜、果物のバランスは取れている。

南国だけあって、果物は特に豊富だ。スイカ、パイナップル、ブドウ、バナナ、オレンジなどが日替わりで出る。週2ぐらいは、マンゴーも食べ放題だ。その日はみんな、トレーのおかずスペースをマンゴーで山盛りにしている。

最初は大喜びで食べていたが、そのうち食傷してきた。

「マンゴーも食い飽きたな」

このセリフ、一度は言ってみたかった!

誰も聞いちゃいないけど。

去年の英会話学校は学食がなかったので、このカフェテリアの有難さは身に染みている。なにしろフィリピンの街中はファストフード店のオンパレード、その上地元料理は肉ばかりで野菜に乏しく、しかも油まみれなのだ。

3食10ドルの学食代を惜しんで、外食ばかりしていた人がいた。関西弁の元気な女性だったが、体調を崩し、予定を切り上げて帰国していった。

カフェテリアの料理はマイルドな味付けで、油も控えめなのだが、それでも腹を壊す人が続出している。

フィリピン料理、恐るべし。

私は学生時代の貧乏旅行中、インドで赤痢、ミャンマーでA型肝炎にやられ、隔離病棟への入院も経験した。それで免疫ができたのか、以来、どんな環境でも鉄壁の胃腸を誇っている。

レッスンの合間に、カフェテリアで人を眺めるのが楽しい。

いつも派手なレギンス姿は、元ANACAさん。これ以上習う必要あるの?と思うほど英語がうまい。彼女の目指す先は、どこにあるのだろう。

深紅のワンピースは、ベトナム人の中国語教師。

とびっきりの爽やか系イケメンは、YouTubeやブログで旅行情報を発信するタイ人インフルエンサーだ。

ノースリーブから出た右腕、全面にタトゥーを描いたパンク系白人女性がいる。どこの人だろう、外国人はいちいちキャラ立ちがすごい。

モンゴル人留学生も見かける。女性たちは顔立ち東洋系なのに、背がすらりと高く八頭身だ。

ロシアの大男アレクサンドルは、超がつくシャイな性格。背中を丸めて、蚊の鳴くような声で話す。モスクワでエンジニアをしていたらしい。

英語の勉強なら、もっと近くでできるでしょうに。例えばヨーロッパとか。

…ハタと気がついた。彼の国はいま戦争中。ロシアのパスポートで入国できる先は、本当に限られてしまうのだろう。

もしかしたら、徴兵忌避の平和主義者? そんな雰囲気もあった。

ある日の学食ランチ


2025年3月22日

眠らない街

 

今年のセブ島英語留学では、「ITパーク」にある学校を選んだ。

ITパークはその名の通り、欧米のテック企業や大手金融機関、外資系会計事務所などのビルが並ぶ、セブ市内でも特別なエリアだ。

ビルに入る時には、ドレスコードのチェックがある。ノースリーブや短パン、サンダル履きでは入館できない。

そうは言っても、ここはフィリピン。朝の出勤時間帯にエレベーターに乗り合わせた女性が、のんびりアイスをなめていたりする。あまりの緊張感のなさに、膝からガクンと崩れ落ちそうになる。

 週末、共に学ぶ大学生に海に誘われた。ジンベエザメと一緒に泳げるよ、という。でも「行く」と言ってから後悔。午前3時、学校前に集合だという。

アラームの電子音にたたき起こされて、真っ暗な中を学校に向かう。ITパークに入ると、ビルというビルの窓に明かりが灯っている。

歩道の人混みも車通りの多さも、日中とまったく変わらない。レストラン街もほとんどが営業中で、むしろ昼間より客が多い。新宿の歌舞伎町でさえ、終電が出てしまえば閑散とするだろうに。

服装チェックの女性警備員も、1日3回通って常連になったコーヒー屋台の店員も、みんな昼間と同じ顔ぶれ。いったい何時間働くのだろうか。

週明け、学校の先生に事情を聞いて納得した。

このITパークには、グローバル企業のコールセンターが集まっている。働く人の多くはアメリカ人の顧客を相手に、アメリカ時間で働いているのだ。

セブ島の土曜日午前3時は、アメリカ東部時間の金曜日午後1時。彼ら彼女らは、完全に昼夜逆転の生活を送っている。

顧客のアメリカ人には、フィリピン訛りの英語を嫌う人もいる。ストレスの多い職場で、体調を崩す人もいるらしい。

 

この英会話学校は、600人いる先生のほとんどが2030代の女性たち。みな対面授業の他にオンライン授業も受け持っているから、生徒の国の時間帯に合わせて、とんでもない時間に働いていたりする。

欧米の英語ネイティブと違って、フィリピン人教師の母語はセブアノ語だったり、ワライ語だったり、タガログ語だったりだ。英語を流ちょうに繰るまで、相当な努力をしてきた。

日本に来れば、まず間違いなく英語人材として上位1%に入りそうな人が、割に合わない給料で外国人相手の英会話教師や、コールセンターでの深夜業務をしている。

1日6時間、マンツーマンでいろいろな先生のレッスンを受ける中で、若さに似合わない、翳りのある表情を見せる人がいた。

Teacher's dance performance, Cebu 2025


2025年3月14日

野獣とキャミソール

 

今年もやって参りました! セブ島英語合宿シーズン!

といっても、まだ2年連続2回目だけど。

セブ島といえば、ビーチリゾートとして有名だ。でも楽園は、高級ホテルのプライベートビーチだけ。セブ市内は、ものすご~くごちゃごちゃしている。

日課の早朝ジョギングに出ると、寝ているホームレスの方々の足を踏みそうになったり、野良イヌに吠えかかられたり。おまけに交差点には信号がないから、大通りを渡るのは命がけだ。1時間走ると、20回ぐらい命がけになる。

早々に心が折れて、フィットネスクラブでゴムベルトの上を走っている。

テレビのCNNニュースを見ながら走っていると、隣ではマッチョな方々が、重いバーベルを持ち上げている。野獣のような唸り声が、響き渡る。

学校への通学路にも、交通量の多い大通りがある。慣れた様子の地元市民を楯にして、その陰に隠れて、恐々と横断する。

ちょっと前までアラブ系、ロシア系の生徒が多かったという英会話学校は、日本人大学生が目立つ。はるか北のニッポンは、いま春休み中…

同じ大学生でも、ふだん私が接している母校の山岳部員とはタイプが違う。女子に目立つのは、短パン+ヘソ出しキャミソールな人たちだ。

朝は野獣→昼はヘソ出しキャミソール

朝は野獣→昼はヘソ出しキャミソール

朝は野獣→昼はヘソ出しキャミソール

おかげさまで、変化に富んだ日々を送っている。

勇気を出して、女子学生に話しかけてみた。彼女は東京の大学の「海洋生命科学部・食品生産科学科」で、大学院進学を目指してアミノ酸の研究に取り組んでいた。人を見かけで判断しちゃいけないなぁと、改めて思う。

1日6時間受ける英会話レッスンのうち、マンツーマン・レッスンが4時間。その中に「カランメソッド」のレッスンが含まれている。先生が早口で繰り出す質問に、即座に応答しなければいけない…のだが、うまく口が回らない。

M1自動小銃の連射に、ぽろりぽろりと三八式歩兵銃で対抗しているような気分になる。

たまに挟まるグループレッスンは、ちょっとだけ憩いの時間だ。クラスメートのデイジーは、美しい韓国人女性。31歳になったので、子作りのために会社を辞めて、夫と一緒にやってきたという。

「日本人は風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むのがお約束だけど、韓国ではバナナ牛乳よ」だって。ホントかいな。

先日はクラスを2つに分けて、英語のRiddle(なぞなぞ)合戦をした。負けた班は罰ゲームに、ニワトリの真似をして踊らなくてはならない。

いい年した大人が、これ以上ないほど真剣な顔になる。

やばい、英語が上達しちゃうかも!

Cebu Philippines, March 2025


2025年3月8日

海は分かれ、道は開かれる(上海にて)

 

昼間でも氷点下、まるで冷凍庫のような信州をエスケープ!

毎冬恒例の、東南アジア周遊に出た。

今回、skyscannerで中部空港発・上海経由でラオスのビエンチャンまで、片道3万円という破格のチケットを見つけた。

まずは上海まで、上海航空という中国の民営航空で飛ぶ。切符はLCCより安いが、れっきとしたフルサービスのエアラインだ。

機内食も出れば、アルコール飲料も無料。キャビンアテンダントも、笑顔でそつのないサービス。定刻前に離陸し、定刻前に上海に到着した。

機内はとても静か。昨年乗った満席のデリー発成田行きエア・インディアはカオスだったが、上海の人たちは落ち着いている。

 上海・浦東国際空港は、空港内を無人運転の電車が走るほど巨大だ。乗り継ぎ時間は1時間足らず。悪いことに、トランジット客用のイミグレーションには長蛇の列ができている。

これは…マズいかも。乗り遅れるかも…

行列の中で交通整理をしていた強面の係官が、私のボーディングパスを一瞥して、大声で何かを叫んだ。

すると私のためだけに、魔法のように新しい窓口が開設された。

長い行列を、一瞬ですり抜ける快感。海は分かれ、道は開かれた! まるで旧約聖書の出エジプト記だ。

共産主義一党独裁の中国は、実はニッポンの入管より融通が利くのだった。

 駆け込み乗車した次のビエンチャン行きは、中国東方航空。ネットの口コミではあまり評判のよくない国営航空会社だ。

でもLCCと違って温かい食事が出るし、ガタイのいい男性客室乗務員たちが、愛想こそないが、こまめにキャビンを回って乗客の安全チェックをしていた。

そして当たり前のように、定刻に雨のビエンチャンに到着した。

 この1月、中部~台南間で乗ったバティック・エアというマレーシアのLCCは、機内サービスはほぼなし。それどころか、乗務員は機体最後尾のカーテンの奥に閉じこもり、離陸から着陸まで、ほとんど出てこなかった。

緊急事態が起きても、まったく当てにならなそう…

 中国系エアラインは以前から激安で、数年前には北京、成都経由ネパールのカトマンズまで、中国国際航空で4万9千円で往復したことがある。

機内食はいつも茶褐色で見た目はよくないが、不思議と口に合う。

という訳で、至れり尽くせりの日本的過剰サービスさえ期待しなければ、中国系エアラインは「推し」です。

China Eastern Airlines  MU283 PVG-VTE Feb 24, 2025


セブ島英語学校の先生たち

  セブ島英会話学校、ランチ後のレッスンが始まる午後1時。 学校の廊下に、 100 人近い若い女性の行列ができる。 遅番の先生が続々と出勤し、タイムレコーダーに並んでいるのだ。 先生の9割が女性で、そのほとんどは 20 代。 狭い通路の両側に並ぶ先生の間をすり抜けて教...