2025年1月10日

「どうすればよかったか?」

 

一本の映画を見に、「特急しなの」に乗って名古屋へ。

かな~り地味な映画のはずだが、小ぢんまりした館内はなんと満席。

急きょ、通路にもパイプイスが並べられた。

100分間の上映が終わり、エンドロールが流れて、スクリーンは真っ暗に。

でも、館内も真っ暗なまま。

まさか、映写技師が居眠りでも…?

数分待って、やっと明かりがともる。余韻を胸に、三々五々、出口に向かう。

最後に出ようとしたら、誰かのスマホがひじ掛けに置きっ放しになっている。

足元にも、A4サイズのノートPCが入った手提げが転がっている。

「これとこれ、誰のですか~⁈」

お客さんの後ろ姿に向かって、大声を出す羽目になった。

もしここがパリやロンドンだったら、ものの3分で持って行かれちゃうよ。

あっという間にSIMカードを抜かれて、転売されて終わりだよ。

200万都市・名古屋の住民は、かな~り緩い人たちみたいだ。

 

この時見た映画のタイトルは、「どうすればよかったか?~言いたくない家族のこと」。藤野知明監督によるドキュメンタリー作品だ。

ある日、頭脳明晰で大学の医学部に進学した姉が、突然、支離滅裂なことを叫び始める。

「統合失調症」が疑われたが、医師であり研究者でもある両親は、それを認めようとしない。

精神科への受診から、姉を遠ざけた。

姉の精神状態は急激に悪化。罵詈雑言を叫び、奇異で突飛な行動を繰り返す。

ついに両親は、玄関に南京錠を掛けて、姉を自宅に閉じ込めた。

映像制作の道を選んだ弟(藤野監督)は、両親のその判断に疑問を覚えながら、姉と両親にビデオカメラを向ける。

以後20年間、社会から隔てられた家族の姿を記録し続けた…


統合失調症は、以前は「精神分裂病」と呼ばれた。

19世紀までは「早発性痴呆」というすごい病名もついていた。

昔から世界中に存在する病気だが、発病の原因は、いまだわかっていない。

私にも、統合失調症と診断され、障害者手帳を頼りにひとり暮らしする友人がいる。たまに会ってランチするが、とてもきちんとした人だ。

そして歳を重ねても、心にピュアな面を保っている。会うたび、それと比べた自分の俗物ぶりを思い知らされる。

映画では、30年経ってようやく精神科の治療を受けた姉が、劇的に回復する。

やっと訪れた平穏な日々。だが、その姉に別の病魔が忍び寄る。

残された人生の時間は、長くはなかった。

「どうすればよかったか?」 この言葉が、胸に突き刺さってくる作品だ。

Nagoya Japan, January 2025


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