2025年1月31日

非正規で10年

 

正社員として25年働いた後、非正規で働き続けて丸10年になる。

その間、職を転々としたが、上司や同僚は不思議と女の人が多かった。

職種が主に「医療」「福祉」「教育」だったから?

それとも、「非正規」という雇用形態に女性が多いのか。

極めつけは、看護助手として病院で働いたとき。

配属された病棟の、医師や看護師全員が女性。男は私ひとりだけ。

22対1。

一瞬、これはパラダイスかも!と錯覚したが、実はかなり居心地が悪かった。

やっぱり男女半々ぐらいの職場が、いちばん働きやすいのかなと思う。

でもそういう仕事場は、ありそうで、なかなかない。


 非正規雇用で働くということは、「人生の自由度」と「収入の低さ(不安定さ)」をトレードオフすることだと思っている。

でも非正規に女性が多い理由が、そんな悠長な話でなく、属するジェンダーのせいで不平等を被っているとしたら?

人口の半分をないがしろにするような国に、明るい未来があるとは思えない。

 

以下は、日経ビジネス電子版に抜粋されていた『教養としてのインテリジェンス エピソードで学ぶ諜報の世界史』(小谷賢著)の、そのまた抜粋です。この国のジェンダーギャップは、かなり根深いものがありそうだ。

 第2次大戦中、1942年のミッドウェー海戦で、米軍は暗号解読組織の貢献によって日本海軍空母部隊の待ち伏せに成功、撃滅した

・米英は暗号解読の重要性を認識し、そこに資源を積極的に投入した。終戦までに、米国の暗号解読組織は2万人、英国も1万人に膨れ上がった。日本は、陸海軍合わせても数千人規模にとどまった

・米英は、女性を含む民間人を暗号解読官として採用した。ミッドウェーで日本海軍の作戦暗号を解読したジョセフ・ロシュフォート海軍中佐も、アグネス・ドリスコールという女性解読官に教えを受けていた

・米国では最終的に1万人もの女性が軍の暗号解読に従事した。英国の暗号解読組織でも、同様に女性が活躍した。日本陸海軍では女性どころか、数学者や言語学者など、外部の有識者が暗号解読に関わることさえ検討されなかった

・暗号戦をサイバー・セキュリティーに置き換えると、日本は今も同種の問題を抱えている。米サイバー軍6200人、中国人民解放軍のサイバー部隊3万人に対して、自衛隊のサイバー防衛隊は800

・現代においてもなお、日本の政治家や官僚はサイバー・セキュリティーの重要性を十分に認識していない

Iiyama Nagano Japan, January 2025


2025年1月24日

肛門性格

 

心理学の概論書を読んでいると、とにかく驚くことばかりだ。

「エーッ、そうなの?」「どうしてそんなことがわかるの?」

ひとりで叫んでいる。

例えば、精神分析の祖ジークムント・フロイトは、人は生まれた時から性欲を持っていると論じた(小児性欲)。

0歳から1歳半までが「口唇期」。性欲が口に集中していて、授乳による快楽が満たされないと、大人になってから依存的な性格になる(口唇性格)。食べたり飲んだりタバコを吸ったりといった、口で得る快楽を好むようにもなる。

1歳半から3歳までは「肛門期」(アナル・ステージ)。トイレトレーニングのこの期間、排泄による快感が満たされないと、大人になって頑固・倹約・几帳面という性格傾向が生じる(肛門性格)。

こ、肛門性格! あんまりなネーミングだ。

そして3歳から6歳までが「男根期」。男児はペニスの勃起を経験し、女児はペニスがないことに違和感を持つ。性欲が男根(男児のペニス、女児のクリトリス)に集まった結果、エディプス・コンプレックスという葛藤が生じる。

果たして自分は子どもの頃、エディプス・コンプレックスを経験したのだろうか。ほとんどの人には3歳以前の記憶がない(幼児期健忘)というが、私の場合3歳どころか、昨日の昼飯も思い出せない(逆行性健忘)。

そこにちょうど、5歳の男児を育てる旧知のママが旅行でやってきた。さっそく聞いてみた。

「心理学の教科書だと、今Sくんはエディプス・コンプレックスまっ最中で、

   ペニスの存在から自分が男であることを意識し始める

   最も身近な女性であるママに性愛感情を抱く

   ママへの性愛感情を実現するため、パパに敵意を抱き、排除を考える

   同時にパパからの報復を恐れる。特に、罰としてペニスを奪われると考える(去勢不安)

   最終的に、ママへの性愛感情とパパへの敵意を無意識に抑圧する

…らしいけど、これってホントのこと?」

「…………………………………………………………………はい?」

まったく心当たりがない様子。

変なこと聞いてゴメンナサイ。

 

当初フロイトの弟子だったユングやアドラーは、フロイトの性発達理論に反発して、次々と彼の許を去った。

でも、今だに多くの本に載っているということは、例外こそあれ、それは一面の真実なのだ。

心理学って面白そう!

Matsumoto Japan, winter 2025


2025年1月17日

「しょせんは漫画家」

 

小学校時代の同級生に、その後音大を出て漫画家になった人がいる。

コンクールで優勝するほどのピアノの達人なのに、「音楽は親が勝手に敷いた路線。私は私の道を行く」と、音大在学中に漫画家としてデビューした。

「天は二物を与えず」なんて、大ウソじゃん!

世の中、不公平にできている。

とはいえ、漫画家というのは、かなり大変な職業らしい。

日経ビジネス電子版に載ったヤマザキマリさんのインタビューが面白かったので、一部を紹介します。

2010年に『テルマエ・ロマエ』の映画が大ヒットした時、映画の興行収入60億円に対して、原作者の私に支払われる原作料は100万円だった

・イタリア人の夫からは「自分が原作の映画が大ヒットしているのに、その利益の外に置かれているのは、君が事前にきちんと契約しなかったからだ」と詰め寄られ、家庭不和になった

・現場はいまだになあなあ。漫画家や作家が出版社に「これ、最初に契約書ください」と言えているかと言ったら、言えていない

・昭和一ケタの母には、私が漫画家になったことをなかなか受け入れてもらえなかった。「漫画なんて下劣」と思っていた人は彼女の世代では少なくない

・私はイタリアの美術大学で油彩、美術史、古代西洋史などを学んできたが、海外でも日本でも、漫画家だと名乗ると、お絵描き一辺倒で生きていけてるラッキーな人、と急に目線を変えられてしまう

・漫画作品を生むというのは、並大抵な気合では太刀打ちできないほど力が必要な作業。プロットを描いてから清書にいたるまでの労働時間を割ったら、おそらく学生のアルバイト時給くらい

・そうやってエネルギーを駆使して作品を描き、その作品がヒットしたとしても、「しょせんは漫画家」という意識が出版業界に漂っている

(以下は、近年のオーバーツーリズムについての発言)

・かつて京都に留学していた息子が久々に戻ってみたら、大学の帰りに寄っていたカフェで好き勝手に騒いでいる外国人がいる。変なたばこの匂いもした。京都に来ている外国人の様子が違ってきている、といっていた

・昔は京都といったら、確かに観光ではあるけれど、日本に興味を持つレベルの人たちが来ていた。今では日本がどんな国なのかもろくに知らず「安くて楽しいらしいよ」というノリだけで訪れる外国人が増えた

・外国人たくさん来て何が悪いのさ、と反論したくなる人もいるだろうけど、世の中にはそれが向いている国とそうじゃない国がある

(以下、ガルシア・マルケス「百年の孤独」の文庫版化について)

・知性というものは、本を読んだり、ひたすら勉強をしたりしていれば得られるものではない。物理的な意味でも精神的な意味でも、積み重ねてきた経験に、書物などで習得した教養が、時間をかけて結合して生まれてくるもの

Tateshina Japan, winter 2024-25


2025年1月10日

「どうすればよかったか?」

 

一本の映画を見に、「特急しなの」に乗って名古屋へ。

かな~り地味な映画のはずだが、小ぢんまりした館内はなんと満席。

急きょ、通路にもパイプイスが並べられた。

100分間の上映が終わり、エンドロールが流れて、スクリーンは真っ暗に。

でも、館内も真っ暗なまま。

まさか、映写技師が居眠りでも…?

数分待って、やっと明かりがともる。余韻を胸に、三々五々、出口に向かう。

最後に出ようとしたら、誰かのスマホがひじ掛けに置きっ放しになっている。

足元にも、A4サイズのノートPCが入った手提げが転がっている。

「これとこれ、誰のですか~⁈」

お客さんの後ろ姿に向かって、大声を出す羽目になった。

もしここがパリやロンドンだったら、ものの3分で持って行かれちゃうよ。

あっという間にSIMカードを抜かれて、転売されて終わりだよ。

200万都市・名古屋の住民は、かな~り緩い人たちみたいだ。

 

この時見た映画のタイトルは、「どうすればよかったか?~言いたくない家族のこと」。藤野知明監督によるドキュメンタリー作品だ。

ある日、頭脳明晰で大学の医学部に進学した姉が、突然、支離滅裂なことを叫び始める。

「統合失調症」が疑われたが、医師であり研究者でもある両親は、それを認めようとしない。

精神科への受診から、姉を遠ざけた。

姉の精神状態は急激に悪化。罵詈雑言を叫び、奇異で突飛な行動を繰り返す。

ついに両親は、玄関に南京錠を掛けて、姉を自宅に閉じ込めた。

映像制作の道を選んだ弟(藤野監督)は、両親のその判断に疑問を覚えながら、姉と両親にビデオカメラを向ける。

以後20年間、社会から隔てられた家族の姿を記録し続けた…


統合失調症は、以前は「精神分裂病」と呼ばれた。

19世紀までは「早発性痴呆」というすごい病名もついていた。

昔から世界中に存在する病気だが、発病の原因は、いまだわかっていない。

私にも、統合失調症と診断され、障害者手帳を頼りにひとり暮らしする友人がいる。たまに会ってランチするが、とてもきちんとした人だ。

そして歳を重ねても、心にピュアな面を保っている。会うたび、それと比べた自分の俗物ぶりを思い知らされる。

映画では、30年経ってようやく精神科の治療を受けた姉が、劇的に回復する。

やっと訪れた平穏な日々。だが、その姉に別の病魔が忍び寄る。

残された人生の時間は、長くはなかった。

「どうすればよかったか?」 この言葉が、胸に突き刺さってくる作品だ。

Nagoya Japan, January 2025


2025年1月3日

日本を背負って立つ人

 

この春、去年一緒にヒマラヤ登山をした学生たちが、社会に向けて旅立つ。

ヨコさんは見事、外交官試験を突破して外務省に入省。

ゆくゆくは、中国に赴任するらしい。

なっちゃんは、防衛産業系の商社へ。

ヨコさんもなっちゃんも、「大好きな母国、日本のために働きたい」と言う。

そしてあいさんは、水まわり住宅総合機器メーカーに就職。

ヒマラヤ登山中に見たネパールの村のトイレ事情に衝撃を受け、「途上国のトイレをなんとかしたい」のだという。

みんな海外志向が強く、「日本のために」「途上国のために」働くという明快な意志を持っている。

立派だなぁ。

ヒマラヤでひと月、寝食を共にしたのに、ぜんぜん気がつかなかった。


自分が大学生だった時は、ほぼ100%、私利私欲で就職先を選んだ。

「カナダ・エスキモー」「ニューギニア高地人」「アラビア遊牧民」を著したジャーナリストの本多勝一氏に憧れて、よし自分も辺境ルポルタージュを書くぞと、新聞社を志望した。

でも本多氏のような正義感は、これっぽっちもない。

「会社のお金で、いろんな国に行けそう」

それが志望動機のすべて

なんて軽薄な!


そして、新聞社を早めに辞めた後は、職を転々とした。

認知症専門グループホームのレク係、デイサービスの送迎ドライバー、生活保護家庭の子の無料塾講師、在住外国人向け日本語教室講師、車いす利用者の送迎ドライバー、アマゾンの巨大倉庫でピッキング、自然学校インタープリター、ゲストハウスの客室係、居酒屋のホール係、末期がん患者専用病棟の看護助手…

ある時はNPOスタッフ、またある時は地方公務員として働いた。

職選びに大まかな傾向があるような、ないような…福祉関係が多いのかな。

どうも自分は、ひとつ事に熟達するよりは、いつも何かのビギナーでいる方がいいみたい。(ブログのネタにもなるし)


新聞社を退職した日から、「自分メディア」として毎週更新のブログを始めて、丸10年になりました。

私に面白いことを言ったばかりにブログに書かれてしまった皆さま、ごめんなさい!

でも大丈夫! 誰も読んでませんから!

いつまで続くかわからないけど、今年もよろしくお願いします。

Mt Tateshina, Japan



末期の言葉は日本語で

  台湾の南西部、台南という町に来た。 バティックエア・マレーシアという LCC が、名古屋から台南の隣町、高雄まで直行便を飛ばしている。4時間ほどのフライトだった。 ホテルのすぐ隣は、国立成功大学。その名を台湾の英雄、鄭成功にちなんだ名門大学だ。いま台湾を率いる民進党・...