小さい頃から、趣味は写真。
高校では写真部に入り、撮影旅行と暗室作業に明け暮れた。
大学では主に山岳写真を撮り、卒業して報道カメラマンになった。
「好きなことを仕事にできてよかったね」
傍から見れば、そういうことになる。
でも現実は、そう簡単ではなかった。
そして、数十人の同僚の中から選ばれる「G担」(キョジン担当カメラマン)は、出世コースど真ん中、花形ポジションとされた。
しかも「すべての報道写真の基本はスポーツ写真」が、不文律となっていた。
スポーツを撮れなければ、人間に非ず。
スポーツ取材に興味がなく、反射神経も鈍い人間(私)にとっては、実はかなりキビシイ職業なのである。
その間、栄えある「キョジン担当」には縁がなかったが、キョジン戦の応援取材には、有無を言わさず駆り出された。
3人で取材チームを組み、まずは球場近くで腹ごしらえ。油ギトギトの料理と一緒に、酒好きな先輩カメラマンに、飲めないビールを飲まされた。
この時点で、すでに戦意喪失。意識もうろう。
球場内のカメラマン席に戻って、さぁ試合開始だ。隣のベテラン・スポーツ紙カメラマンが、一球一球をレンズで追い、心地よいシャッター音を響かせる。
空調の効いたドーム球場は、暑からず寒からず、実に快適だ。
…これで寝るなという方が無理でしょう。
キョジンが勝とうが負けようが、ぼく興味ないし。
ウトウト…
カキーン!!
鋭い打球音と、大歓声。我に返ると、イヤホンのラジオ中継が「打った入ったホームラン! キョジン勝ち越しです!」と叫んでいる。
ししし、しまったぁ! 撮りっぱぐれたぁ!
もしこれが決勝点になってしまうと、会社に戻ってから地獄を見る。たちまち睡魔も吹っ飛び、その後は相手チームを熱烈に応援した。
すると、神風が吹いた。相手打線が奮起して、執念の再逆転!
あぁ、助かった…
もし自分が素直にキョジン軍のファンになっていたら…
タダで特等席から試合が見られて、さぞ楽しかったろうと思う。
仕事にも、もっと身が入っただろう。寝たりもしなかっただろう。
もしかしたら、人生そのものが変わっていたかも…
でも人間って、そう簡単には宗旨替えできないのです。
Tateshina Japan, December 2024 |