「愛着障害」
愛着障害は、本来「安全基地」として無条件の愛情と世話で子どもを守ってくれる養育者(通常は母親)が、「安全基地」としての役割をうまく果たせないことによって生じる。
最近の研究では、母親との不安定な愛着を示す子どもは人口の3割以上。大人になっても、精神面、健康面で深刻な影響を引きずるという。
この本では、歴史に名を残すような人たちも愛着の問題を抱えていたことが、精神科医の著者によって明かされている。一部を紹介します。
【Mの場合】
父親は誰だか不明。母親は錯乱を起こして精神病院に入院。その間Mは、孤児院と里親の間を10回も行き来して育つ。里親の元では性的虐待を受ける。
16歳で最初の結婚をしたMは、離婚と結婚を繰り返し、妊娠中絶すること13回。
女優として世界的な名声を得るも、36歳で睡眠薬のオーバードースで死亡。
Mとは、あのマリリン・モンロー。モンローは「知性とは無縁のセックスシンボル」というイメージと異なり、大変な読書家だったという。孤児院や施設で育った人は、読書に救いを見出すのだ。
【Hの場合】
Hの両親はともに熱心な宣教師。わが子に対して、自然な情愛より聖書の教えに忠実であることを求めた。親の期待や基準ばかり押し付け、それに応えられないHを否定的に見下し、ついには児童相談所に放り込む。
親との確執は成人後も続き、Hは慢性的な希死念慮に苦しんだ。
Hとは、「車輪の下」などで青春期の苦悩を描き続けた作家のヘルマン・ヘッセ。
【Yの場合】
Yは裕福な家庭に生まれたが、愛情に欠けた自己愛的な母親に育てられ、不安定な愛着しか育めなかった。長じて結婚したYは夫以外の何人かの男性と関係を持ち、中絶を繰り返す。睡眠薬で自殺を図り、精神病院に入院した。
このYとは、3人めの夫としてジョン・レノンと結婚、前衛芸術家・社会活動家として知られるようになったオノ・ヨーコのことだ。
【Tの場合】
Tの母親はお嬢様育ちの上に作家志望で、子育てにまったく関心がなかった。幼いTをひもに結んで柱につなぎ、ひとりで遊ばせた。さらに父親は母親以上に子どもに無関心で、Tの弟が2歳で亡くなった時も、仕事を中断しなかった。
そして母親は、不倫相手と同棲を始めた。
Tとは「太陽の塔」の制作で知られる芸術家の岡本太郎。母親は小説家の岡本かの子。父親は漫画家の岡本一平だ。
子どもの頃の過酷な体験が元で、その後も対人関係に苦しみながらも大事を成し遂げた人たち。逆境を乗り越える中では、大変な苦労があったことと思う。
National Portrait Museum, London 2024 |
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