2024年9月6日

女王様

 

戦い終わって、日が暮れて。

今年のサマーキャンプにも、本当にいろんな子がいた。

キャンプ3日目のハイライト、北八ヶ岳登山。鬱蒼とした樹林帯を頂上直下まで登れば、待ちに待ったお弁当の時間だ。

岩に腰かけて、リュックからコンビニおにぎりを取り出す。

そこに、別の班のリオコが駆け寄ってきた。

「ビニール取ってあげる!」

かわいい手で、おにぎりのビニールを器用にはがす。

そして半分に割ると、片方を自分の口に押し込んで、ニコニコしながら走り去った。

ああ…

ぼくの大好物の、明太子おにぎりが。

 

子どもとのコミュニケーションを学ぼうと、「アサーション・トレーニング」(平木典子著、日精研)という本を読んでみた。

アサーションは、相手を大切にしながら自分の考えを率直に伝える「自他尊重」の表現方法。黒人や女性、LGBTや先住民など、70年代のアメリカで社会的弱者だった人たちの権利擁護が、そのルーツだという。

そしてアサーティブな自己表現とは、①その場を客観的に描写し、②自分の主観的な気持ちを伝えて、③特定の提案を行う、だそうだ。

従ってこの場面で取るべき態度は、「①リオコさんが、ぼくのおにぎりを半分食べようとしています②でも、ぼくだってお腹が空いているんです③せめて食べるのは4分の1にしてもらえないでしょうか」と主張することらしい。

よし、来年の夏までに練習しておこう。

…ぐだぐだ言ってる間に、またリオコに全部食われそう。

 その本には、ある家裁調査官の手記も載っていた。少年鑑別所で35年以上、非行少年たちの幼少時の記憶を聞いてきたが、母親や父親との思い出がほとんど出てこないという。

ほぼ例外なく、放任型の養育態度の家庭で育っている。

そうやって親に大切にされなかった少年は、小学校に入っても、教師などの大人と親密な関係を築くことができない。そして中学校に進学すると、万引きなどの非行に走る。親からは叱責され、教師からは指導される。

そしてますます、大人への反抗が増えていく…

 

東京からサマーキャンプにやって来る小学生は、親から大切にされているのがわかる。女王様とやんちゃ坊主ばかりだが、その笑顔には一点の曇りもない。

そのまま、すくすく育ってくれや。

おにぎりの恨みは消えないけど。



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