「ウチの眼科は、腕も性格もイマイチよ」
少し前から右眼がかすむようになり、勤務先の病院の眼科を受診した。いきなり、まだ若いけど白内障です、と告知された。
「まだ若いけど」は余計じゃね?
緩和ケア病棟に戻り、看護師さんにその話をしたら…
あの眼科医、やっぱりイマイチだったか!
手術は順番待ちで秋になる、と言われたのを、渡りに船。紹介状を書いてもらい、さっさと町のHクリニックに移った。
クリニックへの最初の電話で、何度も「ありがとうございます」と言われて驚く。放っておいても患者が押し寄せ、「紹介状があれば診てやる」という態度の大病院とは、えらい違いだ。
待ち時間ゼロで、各種機材を使って、3時間かけて眼の状態を調べてもらう。そして、さっそく翌々週の手術が決まった。なんてスピーディな!
手術は日帰りで、所要15分。準備と説明を合わせても、2時間ほどで帰れるらしい。勤め人にはとてもありがたい。
そして当日。手術室に案内されると、4台並んだ手術台におじいちゃんが寝ている。眼科の患者は圧倒的に高齢者が多い。看護師さんが、耳の遠い人に声を張り上げている。確かに、私だけ場違いな若造だ。
両眼を覆われた状態で待っていると、「ハイ終わりです、お疲れさまでした~」という声が聞こえた。さぁ次は自分の番だと身構えていると、今度は隣の人のオペ。まさに「俎板の鯉」で、心臓に悪い。
やがて、わが耳元にも「ハイ終わりです、お疲れさまでした~」の声を聞く。右眼に眼帯をつけて、クリニックを後にした。
外に出てみると、ゆっくり歩くのさえ怖い。今までもずっと、眼が「冬のラーメン屋に入った直後のメガネ」状態だったのに、ぼんやりとでも両眼が見えるのと、片方がまったく塞がれるのとでは、大違い。
「手術当日は、なるべく家族同伴で」と言われた意味が、よくわかった。
翌日、晴れて眼帯が取れた。HOYAの眼内レンズが装着された右眼は、0.01のド近眼が、0.3に改善されていた。そして、視界に何の曇りもない。
「ありがとうございます!私の手術、ずいぶん時間がかかったようですね」
「いや。18分でしたよ。近眼の方は目玉が大きいので、麻酔を多めに入れて、効くまで待つんです」
私の主治医、ハタケヤマ先生は、少女漫画の主人公みたいに眼が大きい。そして、キラキラ輝いている。
「さすがに眼科の先生は眼がおきれいですね」
「そう?私はミヤサカさんよりひどい近眼なんですよ」
なるほど、それで眼が大きいのか!
誠実なお人柄のハタケヤマ先生は、50がらみの男性医師である。
Karuizawa, Japan |