2022年12月24日

ひとりだけ霧の中

 

 すごい寒波がやってきて、各地に雪を降らせた。

 こういう日にマスクをして外出すると、呼気ですぐメガネが曇る。

 でも最近は、マスクをしなくてもメガネが曇る。

 それも、なぜか右側だけ。

 メガネを外して拭こうとすると…

 ぜんぜん曇ってない。

 …曇っていたのは、実は自分の眼のほうだった。

 

 手で左眼を覆い、右眼だけで周囲を見ると、まるで霧がかかったよう。「近眼の度が進んだ」なんていう、生易しいもんじゃない。近くも遠くも、全くピントが合わないのだ。

 このことに気づいたときのショックといったら!

 この先、もし左眼まで悪くなったら、クルマを運転して旅行に行けなくなる。本も読めない。きれいな景色も見られない。きれいな女の人も…

 いやいや「撃墜王」坂井三郎は、空戦で片眼の視力を失う重傷を負いながら、その後もゼロ戦を繰って終戦まで戦い続け、天寿を全うしたじゃないか。

 心は千々に乱れた。

 

 こういう時、職場が病院だと便利だ。わざわざ通院しなくて済む。

 仕事の合間に、アポなしで眼科へ。受付だけ済ませて5階の病棟で働いていたら、診察の順番がきたと内線で知らせてくれた。

 問診の後、瞳孔を開く目薬を差し、眼に強烈な光を当てられる。

やがて向き直った男性医師が、そっけない口ぶりで言った。

「まだ若いけど…白内障です」

「簡単に治す方法はありません。手術することになります」

 な…なんちゅう言い方するねん!

 

 思い当たるフシは…大ありだ。日本の雪山やヒマラヤを、ろくにサングラスもかけず、眼にガンガン紫外線を浴びながら登ったせいだろう。自業自得。

でもまぁ医者になんと言われようと、これは考え得るベストシナリオだ。白内障は、手術で治る。医療が整わない一部の国では、いまだに白内障で失明する人もいるらしいから、日本に生まれたことに感謝したい。

 

「ぼくずっと手術室で働いてたけど、50代の白内障は珍しくなかったですよ。術後はみんな『世界が明るくなった』って」

 心優しきは、ヤマモト看護部長。

「白内障の手術で、ついでに近眼も治らないかって? そんなことはないわねぇ。ただ元に戻るだけよ」

 クールなリアリストの、マルヤマ看護師長…



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