多岐にわたる看護助手の仕事のひとつに、入浴介助がある。
患者さんをベッドごと浴室に運び、寝間着を脱がせて髪と体を洗い、横になったまま入浴できる「シャワーベッド」という装置に入れる。
その間に、すばやくベッドのシーツ交換。
週2回の入浴日には、朝から夕方まで20人の患者さんを、連続してお風呂に入れる。夏の浴室は蒸し暑く、まるでサウナで筋トレしているよう。時間との戦いでもある。
防水エプロンで全身を覆うのだが、看護師さんが「カンセン」と呼ぶ病気の人の時は、エプロンを二重にし、N95型高性能マスクとゴーグルで顔を覆い、両手にゴム手袋をはめる。
この4階西病棟は、以前いた3階南病棟より、さらに重篤な患者さんが多い。気管切開で喉に穴が開いた人、お腹に胃ろうの穴が開いた人、尿道に管を入れている人、顔全体が酸素マスクで覆われている人…
植物状態の人もいる。患者さんの多くが、呼びかけても反応がない。
隅に置かれた大きなゴミ袋が、うんち入りの紙おむつで、すぐいっぱいになる。充満する糞尿の香り。最初から最後まで、「イタイ!」「コワイ!」「アツイ!」と叫び続ける患者さんもいて、最初はかなり戸惑った。
うんちが肛門を塞いでいるとみるや、看護師さんがゴム手袋をはめて、「摘便」という処置を行う。肛門に指を入れて、直腸のうんちをかき出すのだ。
「ハイ、笑って~!」「笑って!」
看護師さん2人がかりで、大きな声で患者さんに呼びかける。
お腹に力を入れてもらうため、なのだが…
お尻に指を突っ込まれたこの状況で、笑える人がいるのかな。
そして、次々に運ばれてくる患者さんの中には、仏さまも混じっている。
「背中洗いまーす、横向いて下さいねー」
看護師さんが表情も変えずに、声掛けしながら入浴させるので、最初は気がつかなかった。でも途中で、死に化粧担当の看護師さんが入って来て、口や鼻に綿を詰めていく。
やせた体に、まだ温もりが残っていた。
先日は、最後の患者さんが仏さまだった。体を洗おうとしたら、ご家族(娘と孫)が、ふだん着の上に防水エプロンをつけて入って来た。
そのお孫さんは、最近看護師になったばかりだという。
てきぱきとした手つきで、天国に旅立ったおばあちゃんの体を清めていた。
生老病死の最終章を垣間見た、その翌日。
自然学校の仕事で、子どもたちと木登りをした。
夏の陽光を浴びた小さな命が、いつも以上に輝いて見えた。
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