果てしなく遠く思えたロープウェイ駅が、霧の中から姿を現した。行きかう人も増えてきた。
すると…
KO寸前のボクサーみたいな足取りのナナが、リュックを自分で背負う、と言い出した。辛うじて他人の目が、彼女の気力をつなぎ止めている。
ロープウェイに乗って山麓駅に下り、愛車の助手席にナナを乗せて、本隊のバスを追いかける。
「きのうナナが買ったお土産はどこ?」「まりさんがちゃんと預かってくれてるよ」「よかった!ママにお菓子とキーホルダー買ったんだ」
上機嫌で話し始めたナナに、ホッと胸をなでおろす。左カーブを曲がって、ふと助手席を見ると…
またオエ~ッとやっている。
「ナナちゃん…」 クルマのことは気にするな!どうせ安い中古車だ(涙)
路肩にクルマを停めてナナを休ませながら、ようやく駅にたどりた時には、本隊を乗せた列車はとっくに発車した後。予約なしで乗った1時間後の特急は満席で、仕方なくデッキの床に陣取った。
ナナはまだ、吐き気が収まらない。小さな体から、1リットルぐらい、水分が抜けてしまったかも。
最初はそっけなかった車掌さんも、ナナを見て顔色を変えた。「予約済なのに乗客が来ない指定席2席」に案内してくれた。
やっとありついた、ふかふかシートに寝かせると…
ナナのバッテリー残量、ついに0%。
列車が中野駅を通過し、「ナナちゃん、起きて!新宿に着くよ!ママに会えるよ!」いくら体をゆすっても、目を開けてくれない。
駅で待つママに電話して、「特急あずさ到着ホーム、7号車乗降口」まで来てくれるよう頼んだ。
ママは、幼い弟の手を引いて現れた。清掃が始まった車内に駆け込み、呼べど叩けど、ナナは微動だにしない。彼女をママがおんぶし、弟と荷物は私が引き受けて、夜逃げした家族のようないでたちで、ホームに降りた。
エスカレーターに乗ってから降りるまでの間に、ナナの様子を手短かに話し、飲み物が喉を通るようになったらたくさん飲ませて、とママに伝えた。
雑踏の中を、夜逃げ家族がタクシー乗り場に急ぐ。
すると…
ママの背中から、か細い、でも毅然とした声が聞こえてきた。
「いま何しゃべってたの?」
※ナナは自宅でひと晩、死んだように眠り、翌朝起きてからは全くいつも通り。キャンプがとても楽しかった、と話しているそうだ。子どもって、いきなり電池切れするけど、フル充電も早い!
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