昨年、投手と打者の二刀流で米メジャーリーグMVPに輝き、今年も大活躍の大谷翔平選手。その大谷選手を輩出したのが、岩手県の花巻東高校だ。
同校野球部の佐々木洋監督は、以前は野球関連の雑誌ばかり読んでいた。ところがある時、試合で思うように勝てなくなった。
「自分自身が変わらなくては」。佐々木監督はそれらを全部捨て、代わりにビジネス誌を読み、東京に経営者の講演を聞きに行って、経営を学んだという。
(以下、日経ビジネス電子版より佐々木監督インタビューのエッセンスです)
・野球で一生メシが食べられるのは、ほんの一握り。野球がうまくなることだけに高校生活を費やすのは無駄。筋肉は年を取れば落ちるが、知識や知恵は一生使える。だから、野球以外の道へも導く
・野球をやるために花巻東に来た子の成績があまりに良かったので、「なんでうちの高校に来たんだ。進路選択を間違えているぞ」と言って東大受験を勧めた。彼は2浪して合格した
・アメリカンフットボールの道に進む子もいる。彼はめちゃくちゃ足が速く、体もでかいので「アメフトでなら、一流大学に進学できる」と説得した
・指導者の仕事の一番の肝は、生徒の個性を見極めて、意識と意欲をその個性が伸びる方向に導いてあげること
・趣味は盆栽。枝の張り具合を観察し、それぞれの良さを生かすようにワイヤーを掛けたり、外したりして成長を導く。適切な誘導が必要なのは人間も同じ
・東北のチームは雪でグラウンドが使えない時、「下半身を作る」と走り込みをしていた。うちでは走り込ませない。走って痩せたら、体が出来ないから
・大谷には、1年生のときに食事量を増やしてもらった。2年生に上がるときには、入学時より体重が20キロ増えた
・東北の子にもともと野球の才能がないから、強豪校が生まれなかったのではない。「常識」に惑わされ合理性を欠いた指導の下、才能を潰されていただけ
・大谷は自身の二刀流について、非常識なことをしているとは思っていない。小学生の頃の延長でプレーしているだけ。むしろ指導者たちが非常識すぎて、打者か投手のどちらかしかさせず、才能を失わせてきたというのが野球の歴史
・才能を伸ばすのは難しいけれど、才能を潰すのはたやすい
・私に大谷を育てる力があるなら、毎年、大谷のような選手を出しているはずだが、現実はそうではない。あれだけの逸材を育てることなど、私にはできない。ただ、できるだけ才能を潰さないようにと考えてきた
・「米国で二刀流をしたら、たくさん叩かれるだろうが、おまえが開拓者になれ。新渡戸稲造のように太平洋の懸け橋になれ」と彼の背中を押した
・人間力だとか心の野球だとか、そんなことを口にする指導者のことが、へどが出るほど嫌い。試合に勝つことと、生徒を育てること。そのどちらも達成するのがプロフェッショナル。指導者の自己満足なんていらない