サマーキャンプ最終日、子どもたち全員で北横岳(2480m)に登った。
霧が渦巻く頂上でおにぎりを食べ、早々に下山にかかる。
いちばん後ろを歩いていたら、ピンクのリュックを背負った子が、登山道にうずくまっているのが見えた。
ナナ(小2)だ。
お腹が痛い、という。
リュックを預かり身軽にして、しばらく休ませる。
「ゆっくり下りられる?」と聞くと、
うん、うなずいて歩き始めた。
そして、いくらも行かないうちにしゃがみこみ、嘔吐した。
今日までテントに泊まりながら、初対面の上級生たちと3日間を過ごしてきた。しかも、ナナにとって初めての、本格的な山登りだ。緊張の連続で、疲れもピークに来ていると思う。
幸い、あとは下るだけ。一歩ずつ足を前に出せれば、そのうちロープウェイ駅に着くよ。
水で口をすすがせて、頃合いを見て「さぁ、もう少し下りようか」と言うと、フラフラと立ち上がった。
それからは、数分歩いてはしゃがみこんで嘔吐、の繰り返し。手でお腹を押さえ、顔は涙でグチャグチャ。自慢のノースフェイスのウェアも、汚れてしまった。
先を行く子の「ヤッホー!」という元気な声が、次第に遠ざかっていく。
後ろから、「関西のおばちゃん風軍団」御一行が、おしゃべりしながら近づいてきた。ナナを見たリーダーが、ふと立ち止まる。
そして振り向きざま、軍団のメンバーに指示を飛ばした。
「サトーさん、この子にウェットティッシュあげて!」「ヤマダさん、経口補水液ね!」「誰か、塩分タブレット持ってたよね⁈」
お約束の「飴ちゃん」はもちろんのこと、痒い所に手が届く応急処置グッズの数々を頂いた。
関西のおばちゃん風軍団は、歩く保健室だ。
そして、「お父さんもガンバッテ!」と声を掛けて、去って行った。
ナナの本物のパパは、たぶん30代だろう。でもありがとうございます。
東京に帰るJRの発車時刻が、刻一刻と迫ってきた。ケータイの圏内に入った時に、本隊のまりさんに状況を話して、ナナを待たずに下山するよう伝えた。
するとその時、へたり込んでいたナナが、突然顔を上げた。
「いま何しゃべってたの?」
ひとりだけ遅れてしまった自分のことを、みんなに知られるのが気に入らないらしい。
ナナは推定体重19キロ。さっさと背負ってしまえば、みんなに追いつけるかも。でも、何度「おんぶしようか?」と言っても、首をタテに振らない。
(続く)