久々に、学校登山ガイドの仕事が舞い込んだ。
東京ナンバーの黄色い「はとバス」を連ねてやってきたのは、中野区の小学生たち。長蛇の列になって登り始めると、道中、芋虫が大発生している。男子が、その数を数え始めた。
「24」「25」「26」…「71」「72」「73」…「149」「150」「151」…
おーい、あんまりバラバラにならないでくれー
最後尾の小柄な男の子が、ポツリとひと言。
「ぼくたち修学旅行代5万5千円払って、芋虫がウンコするとこ見に来たの?」
ほら、足元ばっか見てないで! いい眺めだよ。
もうひとりの山岳ガイドSさんは、元消防士。3年前、長野に移住してきた。
「コロナでガイドができなくなった分、救急救命法の知識を生かして、講習会を開きました。助産師の妻は、産後ケアを受けられる宿泊施設をやってます」
芸は身を助く。
やっと山頂に到着すると、さっきの男子が駆け寄ってきた。
「芋虫で遅れたぼくたちに付き添ってくれて、ありがとうございました」
礼儀正しく、ペコリと頭を下げる。この国の将来は明るい…かな?
下りは、添乗員のNさんと一緒に歩いた。
「私は旅行会社の正社員ではなく、添乗の仕事をフリーで請け負ってます。会社勤めもしたんですが、性に合わなくて」
「連日連夜、国内や海外のツアーで家を空けて、夫はほぼ一人暮らし。でもコロナ禍で、仕事が消滅しました。ゼロですよゼロ! バイトでしのぎました」
「外国に行けるようになったら、夫とバックパッカーの旅をしたい。ヨルダンやシリアがお気に入りです。ヨーロッパだったら、アイスランドが好きかな」
下山口に着くと、校長先生がリンゴジュースを持って迎えてくれた。
「長崎に行く予定だったんですが、去年はコロナ禍で中止。今年はとにかく修学旅行に行かせてあげたくて、山登りに変更しました。でもこの状況で行っていいものか、出発前日まで悩みました。東京から来てしまってすみません」
ぜんぜん気にしてませんよ。ようこそ霧ケ峰へ!
近くで子どもと記念写真に納まっていた先生が、
「こんなオジサンも写真に入れてくれるなんて…」
と、泣きまねしている。
児童も先生も一緒になって、はしゃぎ回る。
校長の英断を応援するように、終日、梅雨の晴れ間が広がっていた。