2021年3月27日

市民に奉仕する者

 

小学生の娘に「職歴質問」を受けた友だちが、

「あなたが生まれる前は、指揮者だったんだよ!」

と答えた。

 いま自営業をしているその友だちは、学生時代のバイトで中学の吹奏楽部を指導し、100人を相手にタクトを振っていたという。

 なんてカッコいい。

警察官に「職務質問」を受けると身構えてしまうが、小学生の「職歴質問」なら、自分も進んで受けてみたい。

なんて答えようかな。

学生時代のアルバイトでやったのが、郵便局の年賀状仕分け、ビル清掃、自閉症児の家庭教師。

新聞社を辞めて、株式投資と並行してやっていたのが、ゲストハウスの客室係、居酒屋ホール係、アマゾン倉庫のピッキング、デイサービスの運転手、ポスティング、交通量調査、中学校の学校登山ガイド、小学生向けサマーキャンプのリーダー、エステサロンの顔モデル、アウトドア誌やオピニオン誌のライター、在住外国人の日本語教師、貧困世帯の子ども向け塾講師、福祉車両で障害者の送迎、認知症グループホームの話し相手。

そしてこの4月(つまり来週)から、今度は公務員になる。

職場は、標高1800メートルの森の中だ。

週休4日。

さあどんな仕事でしょう。

守秘義務はなさそうなので、そのうちブログに書きます。

 

ついに自分も公僕、市民に奉仕する者、Civil Servant か。

感慨ひとしお。

でも「こんど公務員になるよ」と言ったとたん、「ウケる~」と笑う人がいるのは…なぜ?



2021年3月20日

薄幸なクルマ

 

 旅先で、ホテルの駐車場にクルマを停めた。

 4泊して、さぁ帰ろうと、久しぶりに愛車に近づくと…

なんと、カラスの糞まみれ。

前後左右、10コ以上も直撃を受けて、もうドロドロ!

見上げると、はるか頭上を電線が横切っている。カラス様の公衆トイレとはつゆ知らず、その真下に停めてしまった。

ああ無情。

フンで汚れたドアノブの端を掴んで、なんとか車内に滑り込む。まだら模様の特別仕様車?は、赤信号で止まるたび、周囲の注目を浴びた。バックミラーに映る後続車は、ありったけ車間距離を開けている。

ガソリンスタンドの洗車機にかけても、フンはしつこくこびりついて、とても1回では落ちなかった。

 

レンタカー屋さんから、中古で買ったこのクルマ。

不特定多数に使われる境遇からは、とりあえず解放してあげた。

その代わり、湘南ナンバーの都会っ子を寒い長野に連れてきて、山道ばかり乗り回している。しかも、1年の半分は冬タイヤを履いて、しょっちゅう雪の上だ。

そして私は、愛車精神ゼロ。クルマなんか冷蔵庫や洗濯機と同じで、ただ動けばいいと思っている。カラスのトイレの真下にも、平気で放置する。

クルマにとっては、レンタカー時代の方が、まだ幸せだったかも。

 

走行距離、まだ3万キロ台半ば。

とことん使い倒してあげるからね。



2021年3月13日

理想と現実、Dream Job

オンライン英会話の先生は、さまざまな職を経てきた人ばかり。

だから初めての先生には、あいさつもそこそこに、仕事の話を聞いている。

英会話講師はフルタイムですか? ほかに本業はありますか?

そして、

What would be your dream job ?

「大学ではコンピュータを学んだのに、なぜか28年間、大型客船でピアノを弾いてるよ。去年はコロナで各国に入港拒否されて、半年も海上をさまよってたよ!それでも、いろんな国に行けて楽しいから、うん、これがぼくの Dream job  だな。いずれは船に戻るつもりだよ」(ジムズ先生・50代・男)

「大学でジャーナリズムを専攻したかったのに、学費が高くて行けなかった。教育学科を出て特別支援学校の先生になったけど、こんなにハードとは思わなかったよ。多動性障害の子は、とっても扱いが難しい。学校はいま、コロナで休校中。いずれはタイかシンガポールで、英語の先生になりたいな。その方がお金になるから」(パティ先生・20代・女)

「クレジットカード会社の電話窓口業務を8年間。時差の関係で毎日が夜勤だし、相手は初っ端から頭に血の上ったアメリカ人の男たち。奥さんが家族カードで勝手に買い物した、その使い込まれた分を取り消せって言うんだよ。最初は2030分だった通勤時間が、渋滞の悪化で2~3時間になって、しんどくなって辞めちゃった。次はセラピストになりたいな。人の話を聞くのは好きだから」(ジョセフ先生・40代・男)

「ずっと地元の生命保険会社で働いてたけど、コロナで失業。できればSNSのインフルエンサーになって、世界中を旅したい。自分のお金を使わずに世界181か国を踏破した、カナダ人のインフルエンサーがいるんだよ!」(ディオン先生・30代・男)

「留学でオーストラリアに行ってたんだけど、勉強しないで毎晩友だちとパーティで飲んでたのが親にバレて、休暇で帰国して以来、ずっと家に閉じ込められてるよ。将来は株式投資家になって、自由に生きたいな」(キャシー先生・20代・女) ※外見はとても真面目そうなお嬢さまでした

「公立中学校で科学を教えています。生徒のことは好きだけど、給料が安いから転職したい。中学教師とかオンライン英語講師とか、人に教える仕事はもう、働く動機づけにならない。これからはデジタル・マーケティングをやりたいと思っています」(ハイメ先生・30代・男)

「名門大学を出たので、同級生は医者だったり、大企業の社員だったり。ぼくは自分で立ち上げた事業をつぶして、その後もうまくいかなかった。いまは実家の畑を手伝いながら、故郷の古い建物を印象派の画風で描いてるんだ。ついに、画家という天職に出会ったよ。オンラインで美術品マーケットにアクセスして、収入にもなってきたよ」(サニー先生・30代・男)

         ※先生は全員、フィリピン在住のフィリピン人です 

Shizuoka Japan, March 2021


2021年3月5日

“砂漠の人”との結婚

「人間の土地へ」  小松由佳著    集英社インターナショナル

 K2はパキスタンにある世界第2の高峰で、遭難の多さから“非情の山”と呼ばれている。著者は日本女性として初めて、そのK2登頂に成功した人だ。

 登山の2年後、26歳の著者はユーラシア大陸横断の旅に出る。そしてシリアの砂漠で、ラクダと共に暮らす青年ラドワンと出会い、恋に落ちた。

 この本は「シリア内戦を内側から描くノンフィクション」と紹介されるが、私にはラドワンと送る結婚生活のくだりが、とりわけ面白かった。

 田舎に暮らす著者の両親は、娘の彼氏が「イスラム教徒のアラブ人」と聞いて、即テロリストを連想した。そして、我が娘もテロリストになるのではないかという「壮大な妄想」を抱き、結婚に猛反対。ついに父親は、

「娘はいなかったものと思うから、お前も親はいなかったものと思え」

 と言い渡す。

 それでも著者は、内戦の激化で故郷を追われ、難民となってヨルダンに逃れたラドワンと、現地で結婚式を挙げる。

「ラドワンと生きるなら、一生苦労が絶えないだろう。だがそれで良かった。むしろ、予測不可能な苦労がつきまとうことに痺れるような喜びを感じた」

 結婚する際、妻もイスラム教徒になることが求められた。「新しい価値観を知りたいという好奇心」から、著者は改宗の儀式に臨み、イスラム教徒になる。

混乱が続くシリアでの生活を諦めた2人は、日本で暮らすことを決意する。だが大家族に生まれ育った夫は、移り住んだ日本でホームシックにかかってしまう。著者が仕事を終えて帰宅すると、彼は「放心状態に陥っていた」。

砂漠で自給自足の生活を送り、「家族や友人とのゆとりの時間こそが人生の価値」だった夫は、「現金がなければ生活が維持できず、生活を維持するために毎日働かねばならない」という現実に戸惑っていた。

履歴書の “過去の仕事欄” に「ラクダの放牧」「日干しレンガ積み」と書く彼にとって、「効率」や「完璧さ」は初めて聞く概念だった。職場で雇い主から注意されても、彼は「何を怒られているのかさえ理解できなかった」。

夫は、難民キャンプで飢えに直面していた頃より痩せてしまったという。

共働きなのに、彼は家事も育児もノータッチ。夫婦で協力するという発想すらない。幾度となく口論になった。

彼が著者に期待したのは、シリア人の妻のように毎日家にいて、丁寧に掃除、洗濯、育児をし、帰宅したらすぐ、美味しい食事を用意してくれること。

「私はシリア人の基準でいえば、完全にダメな妻なのだ」

 そして、著者は悟りを開く。

「私はことあるごとに、ラドワンが “砂漠の人” だと捉えることで、悶々とした思いを払拭するに至った」

 登山家から写真家に転身した著者は、幼い我が子を背負って、シリア難民の現地取材に駆け回っている。

Matsumoto Japan, February 2021

 

自然学校で

  このところ、勤務先の自然学校に連日、首都圏の小中学校がやってくる。 先日、ある北関東の私立中の先生から「ウチの生徒、新 NISA の話になると目の色が変わります。実際に株式投資を始めた子もいますよ」という話を聞いた。 中学生から株式投資! 未成年でも証券口座を開けるん...