2019年10月4日

ミカンひと山100円の町


 東京を脱出し、関東の端に引っ越してきた5年前。

 裏山をジョギングしていたら、ミカンの無人販売所を見つけた。

 ひと山、100円。

「安い!」と大感激。以後、ポケットに100円玉を入れて走った。

 ところが知り合いが増えてくると、あちこちでミカンを頂く。

 近所のお母さん、NPOで知り合ったおばあちゃんから、車を借りたレンタカー屋のお姉さんまで・・・

毎日のようにミカンをもらって食べた。

ミカンは、お金を払って買わなくてもいいんだ!もしミカンが、全ての栄養素を備えた食品なら、収入ゼロでも生きていける・・・かも。



先日ある会合で、この町の市議をしているSさんに出会った。

50歳ぐらいの人で、奥さんと子ども2人の4人家族。

そして実家はミカン農家。今朝もひと仕事してきたという。

趣味は読書、旅行、草刈り。

何となく隙があるスーツとネクタイ姿から、土の香りが漂ってきそう。



Sさんに裏山の100円ミカンの話をしたら、「実はあれ、すごく儲かるんですよ!」と、嬉しそうに言う。

 キズがあったり小さかったりする規格外のミカンは、おいしくても農協に出荷できない。かといってミカンの缶詰工場に卸すと、1キロ当たり7円にしかならない。

 その同じミカンを裏山に置いておくだけで、不思議や不思議、7円が100円に・・・

「でも、『監視カメラ作動中』の貼り紙がある無人販売所も見かけますよ。実は大変なんじゃないですか?」

「あ、国道に置いちゃダメ。ごっそり持って行かれるから」

 あまり目立たない農道沿いに置くのがコツらしい。

Sさんが夕方、料金箱を開けてみると、100円に混じって1円玉が入っていることがある。それでも、代金回収率は平均99%だという。



「でも早朝から農作業して昼は議員活動、大変ですね~」

「いや・・・むしろ、議員報酬を月に何十万ももらえてしまう方が苦痛です。陰でアイツ何もしてないのにって言われるし」

「そもそも、好きで議員になった訳じゃないんです。地元のしがらみがあって・・・2期務めたから、もうやめたいな」

 仕事で出会った、中央の政治家たちとは大違い。

 どこまでも正直で、欲のないSさんなのであった。



Mt. Tateshina, autumn 2019

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