東京を脱出し、関東の端に引っ越してきた5年前。
裏山をジョギングしていたら、ミカンの無人販売所を見つけた。
ひと山、100円。
「安い!」と大感激。以後、ポケットに100円玉を入れて走った。
ところが知り合いが増えてくると、あちこちでミカンを頂く。
近所のお母さん、NPOで知り合ったおばあちゃんから、車を借りたレンタカー屋のお姉さんまで・・・
毎日のようにミカンをもらって食べた。
ミカンは、お金を払って買わなくてもいいんだ!もしミカンが、全ての栄養素を備えた食品なら、収入ゼロでも生きていける・・・かも。
先日ある会合で、この町の市議をしているSさんに出会った。
50歳ぐらいの人で、奥さんと子ども2人の4人家族。
そして実家はミカン農家。今朝もひと仕事してきたという。
趣味は読書、旅行、草刈り。
何となく隙があるスーツとネクタイ姿から、土の香りが漂ってきそう。
Sさんに裏山の100円ミカンの話をしたら、「実はあれ、すごく儲かるんですよ!」と、嬉しそうに言う。
キズがあったり小さかったりする規格外のミカンは、おいしくても農協に出荷できない。かといってミカンの缶詰工場に卸すと、1キロ当たり7円にしかならない。
その同じミカンを裏山に置いておくだけで、不思議や不思議、7円が100円に・・・
「でも、『監視カメラ作動中』の貼り紙がある無人販売所も見かけますよ。実は大変なんじゃないですか?」
「あ、国道に置いちゃダメ。ごっそり持って行かれるから」
あまり目立たない農道沿いに置くのがコツらしい。
Sさんが夕方、料金箱を開けてみると、100円に混じって1円玉が入っていることがある。それでも、代金回収率は平均99%だという。
「でも早朝から農作業して昼は議員活動、大変ですね~」
「いや・・・むしろ、議員報酬を月に何十万ももらえてしまう方が苦痛です。陰でアイツ何もしてないのにって言われるし」
「そもそも、好きで議員になった訳じゃないんです。地元のしがらみがあって・・・2期務めたから、もうやめたいな」
仕事で出会った、中央の政治家たちとは大違い。
どこまでも正直で、欲のないSさんなのであった。
Mt. Tateshina, autumn 2019 |
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