高校時代の友人と30数年ぶりに会ったら、彼が「フリーの仏像修復師」になっていた。
フリーの、仏像修復師。そんな職業あるんだ・・・
彼、ワタナベ君自身も、職業欄にどう書こうか、いまだに悩むという。
絵画や書などは専門外だが、それがリッタイブツ(立体物)であれば、仏教だろうがキリスト教だろうが、何でも直す。でも十字架のキリスト像を修復したことは、まだない。
ワタナベ君とは高校時代、一緒に南アルプスや奥秩父の山をぽくぽく歩いた。その頃の彼は無精ひげを生やし、もの静かな山男という印象だった。
大学院まで行き、文化財修復を専門にする会社で働いた後、独立した。
地方の工房に半年間泊まり込み、休日返上で仕事をすることもあるらしい。
小田原城に展示中の北条早雲像も、彼の手によるものだ。
薄暗い工房でひとり、数百年も前の像と向き合う。制作した先人の息遣いを感じる。
「修復ついでにドサクサで、背中に自分のイニシャル入れてない?」
「ないない!」
最近は、地方自治体がどこも財政難で、文化財修復の依頼も多くない。いろいろ、苦労があるみたい。
ワタナベ君と会ったのは、新宿・歌舞伎町にあるしゃぶしゃぶの店(店の人はノーパンではなく、きちんと着物を着ていた)。夜の歌舞伎町に足を踏み入れたのは、実は初めて。
静かな半個室でゆったり食事を楽しんで、外に出た。いきなり、猥雑な音と光の渦に巻き込まれた。
怪しげな店が軒を連ねる小路は、酔っ払いや客引き、外国人らであふれかえって、すごいことになっている。
怪しげな店が軒を連ねる小路は、酔っ払いや客引き、外国人らであふれかえって、すごいことになっている。
人種・国籍・性的指向などなど、あらゆる属性の人が入り乱れた夜の歌舞伎町。その中で、およそ中年男らしくない、澄んだ瞳のワタナベ君は、ひとり異彩を放っていた。
その彼は50代のいま、コンテンポラリー・ダンスにハマっている。
女性たちに交じって、パツパツのタイツで踊っているのだろうか・・・
踊る仏像修復師。
Waikiki at night |
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