2019年7月5日

踊る仏像修復師


 高校時代の友人と30数年ぶりに会ったら、彼が「フリーの仏像修復師」になっていた。

 フリーの、仏像修復師。そんな職業あるんだ・・・

 彼、ワタナベ君自身も、職業欄にどう書こうか、いまだに悩むという。


絵画や書などは専門外だが、それがリッタイブツ(立体物)であれば、仏教だろうがキリスト教だろうが、何でも直す。でも十字架のキリスト像を修復したことは、まだない。

 

 ワタナベ君とは高校時代、一緒に南アルプスや奥秩父の山をぽくぽく歩いた。その頃の彼は無精ひげを生やし、もの静かな山男という印象だった。

大学院まで行き、文化財修復を専門にする会社で働いた後、独立した。

 地方の工房に半年間泊まり込み、休日返上で仕事をすることもあるらしい。

 小田原城に展示中の北条早雲像も、彼の手によるものだ。



 薄暗い工房でひとり、数百年も前の像と向き合う。制作した先人の息遣いを感じる。

「修復ついでにドサクサで、背中に自分のイニシャル入れてない?」

「ないない!」

 最近は、地方自治体がどこも財政難で、文化財修復の依頼も多くない。いろいろ、苦労があるみたい。



 ワタナベ君と会ったのは、新宿・歌舞伎町にあるしゃぶしゃぶの店(店の人はノーパンではなく、きちんと着物を着ていた)。夜の歌舞伎町に足を踏み入れたのは、実は初めて。

静かな半個室でゆったり食事を楽しんで、外に出た。いきなり、猥雑な音と光の渦に巻き込まれた。

 怪しげな店が軒を連ねる小路は、酔っ払いや客引き、外国人らであふれかえって、すごいことになっている。

人種・国籍・性的指向などなど、あらゆる属性の人が入り乱れた夜の歌舞伎町。その中で、およそ中年男らしくない、澄んだ瞳のワタナベ君は、ひとり異彩を放っていた。



 その彼は50代のいま、コンテンポラリー・ダンスにハマっている。

 女性たちに交じって、パツパツのタイツで踊っているのだろうか・・・

 踊る仏像修復師。


Waikiki at night

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