平成最後の夏。
・・・とは関係なく、昭和を生きた5人の評伝を読んだ。
井上成実(元海軍大将)、渋沢敬三(元日銀総裁)、宮本常一(民俗学者)、佐治敬三(元サントリー社長)、開高健(作家)。
開高健以外は、我ながらシブい人選だと思う。
民俗学者・宮本常一のことは、佐野眞一著「旅する巨人」で初めて知った。
空前絶後の旅行者、といわれる人だったらしい。
戦前・戦中・戦後にかけて4000日を旅に費やし、1日あたり40キロ、計16万キロ歩いて、日本中の古老から話を聞いた。
そして、膨大な聞き書きの記録を残している。
「数多くの事実の積み上げの中から、最小限いえることだけを引き出していこうとする」宮本の手法は、「自分の仮説にあう資料やデータばかりを集積し、自分なりの理論を組み立てようとする」他の学者とは対極にあったという。
新聞社時代の自分を思い出して、赤面した。(だって締め切りが・・・)
58歳で武蔵野美大の教授になるまで、宮本はずっと無職だった。
その彼を経済的に支えたのが、渋沢敬三。
若い頃に動物学者を目指した渋沢は、子爵家に生まれたばかりに、心ならずも銀行家になる。「銀行の仕事は一度も面白いと思ったことがない」彼は、33部屋ある自宅に宮本一家を住まわせ、ポケットマネーで彼の旅費を出す。
そして宮本に言う。
「決して主流になろうとするな。傍流であればこそ状況がよく見える。主役になればかえって多くのものを見落とす。その見落とされたものの中に大切なものがあるのだ」
いや実にカッコイイ。
宮本のような「旅する巨人」にもなりたいが、渋沢みたいなお金持ちになって、意欲ある若い人のパトロンになるのも悪くない。
日本人は「お金」や「お金持ち」に対してネガティブだ。渋沢のようなお金の使い方をする人が身近にいれば、私たちも素直に「お金持ちになりたい」と思えるのだろう。
偉業を成した人の伝記は、美しいだけでは終わらない。宮本の長女は言う。
「ほとんど家に帰れないほど旅をつづけたからあれだけの仕事ができたとは思いますが、家族が犠牲になったという気持は、正直いってあります」
「父でなければ尊敬できる人でした」
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