2018年4月21日

にわか仏教徒


アメリカ南部の、ある町でのこと。

巡回中の警官がコンビニ裏を通りがかると、女が自分の腕にヘロインを打っている。

女はハイウェー脇の草むらに暮らすホームレスで、臨月だった

現行犯逮捕を覚悟した女に、警官はとんでもない申し出をした。

「あなたはその子を育てられるのか? 私が養子にして育てよう」。

やがて生まれた赤ちゃんに「希望」と名付けて、我が子同様に育てているという。

CNNの取材に答えて、その警官ライアン・ホーレッツ氏は言っている。

「これまで何度も、助けたいのに助けられない状況に出会ってうんざりしていた」「今回ばかりは『やりなさい。君にはできる』と神に言われた気がした」

路上で暮らす薬物中毒者の子を養子にすることを、妻も賛成したという。

我が家の最寄り駅にも、30代に見えるホームレス女性がいる。氷点下の冬を乗り切り、今朝もミスタードーナツ前で布団にくるまっている。

もし彼女のおなかが大きかったら、やがて生まれる子を養子に迎える度量が、自分にはあるだろうか。

ホーレッツ巡査の行為は、常軌を逸しているように見える。キリスト教への信仰がそうさせるのか。アメリカ人はこの話を、心温まるエピソードとして普通に受け止めるのだろうか。

 

 この話、CNNニュースを集めた月刊の英語教材で出会った。

 私の英語のヒーローは、アフガニスタンで出会ったジャワット君。貧困と内戦の地で、雑音だらけのBBCラジオで英語を独習し、外国メディアの通訳になった。便利な教材を買える私は恵まれている。

 CDを聞き流すだけでは上達しないので、テキストを何度も音読する。トランプ大統領の英語は、単語が中学生レベルで話し方もゆっくり。聞き取れてうれしい。でも音読すると、なぜか気が滅入ってくる。

その点、ホーレッツ巡査の話は気分が乗った。

CNN花形記者の抑揚を真似しながら、精いっぱいの滑舌で繰り返し音読した。

すると洗濯ついでに通りがかった妻が、

「また念仏が始まった」

 と言い残し、去って行った。

 念仏・・・

 そうか私は仏教徒か。

 だからホーレッツ巡査になれなくてもいいんだ。



Honolulu, February 2018

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