2017年10月28日

自信が確信に変わる時


「ミヤサカさんみたいな人を記事にしたい。ミヤサカさんで何回も連載が書けるけど、元同業者を取り上げるのはNG。だから、知り合いで似たような人いませんか?」新聞記者をしている友だちに聞かれた。

 不肖、この私でも新聞記事になるの? かなりうれしい。

でも、私に似た人ってどんな人だろう。

思い当たるのは、会社を早期退職してフリーカメラマンになった人、東南アジアをウロウロしている人、翻訳家に転身した人、改めて学校に通い始めた人・・・

知っているのは、あいにく皆、元同業者たちだ。

退職後に移り住んだ町で、私は子どもやお年寄り、女性たちとボランティア活動でつながることができている。でもそこには、見事に中年男性の姿だけがない。みな会社に行っていて、それどころではないようだ。

私の山登り友だちは、20代30代でサラリーマン生活に見切りをつけて、けっこう自由に暮らしている。でも彼らは時代の先を行きすぎていて、記事にできないかも知れない。

会社を辞めようと思った数年前、身近にロールモデルとなるような人がいなくて困った。早期退職した人のその後を知りたくて、ネット書店や図書館を巡ったが、ほとんど収穫がなかった。

その点アメリカは、とうの昔に終身雇用が崩壊し、突然のレイオフで転身を迫られる社会だ。ポートフォリオワーカー、チャンクワーカー、ライフスタイルワーカーといった言葉もあり、複線的なキャリアを送る人の本が何冊も出ている。

ネットで取り寄せて、英語と格闘しながら1ページ1ページ読み進んだ。いま思い出すと、とてもワクワクする時間だった。

気がつけば、私の毎日から通勤時間がなくなって3年。投資家を生業にする自信がついてきた。

いや、ボストン・レッドソックス時代の松坂大輔投手の言葉を借りれば、

「自信が確信に変わった」

 地方都市でぜいたくしなければ、夫婦2人のベーシックインカムは十分に賄える。今後、市場は再び暴落するだろうが、その時は回復するまで2~3年、有給の仕事を増やせばいい話だ。


 それにしても、周りに同類がいない。孤独だ。


ぜひ似たような人を探し出して、記事にして欲しいと友だちに頼んだ。

先日、早期退職した同世代の友人が、ミャンマー全州を7か月かけてバイクで踏破し、帰国した。旅先で日本人に会うと、必ず「これからどうするの?」と心配され、欧米人には全員に「おめでとう!君みたいになりたいよ!」と祝福されたそうだ。

 この対照的な反応は、ひとえに雇用の流動性の差だ。会社に雇われない人、こだわらない人が増えれば、日本はずっと居心地がよくなる。


2017年10月21日

言ってはいけない


 雨の中を送迎ボランティア。今日のおばあちゃん(89)は、胃がんと直腸がんで人工肛門。この前補聴器を買い替えて、大枚36万円払った。

「トシ取ると色々お金がかかるねえ」

 ところが新しい補聴器でも、やっぱり会話は一方通行。大声を出しても通じないもどかしさは、以前と変わらない。

 でもそれは言えなかった。



「言ってはいけない~残酷すぎる真実」 橘玲著

 本当に人間は平等で、努力は報われて、見た目は大した問題ではないのか?最新の進化論、遺伝学、脳科学から明らかになったのは・・・



容姿による収入格差はある(経済学者ハマーメッシュの研究)

 美人は平凡な女性より8%収入が多く、不美人は4%少ない。大卒サラリーマンの生涯賃金3億円に当てはめると、「美醜格差」は3600万円。

 さらに、容姿の劣る男性は平均的な男性より13%も収入が少ない。女性より格差が大きいのは、雇用主が暴力的な外見の若者を警戒し排除するから。



写真から未来がわかる(心理学者ハーテンステインの研究)

 卒業写真であまり笑っていなかった男女の離婚率は、満面の笑みの卒業生の5倍。

いっぽう、写真で判別できないのは「誠実さ」「穏やかさ」「政治的見解」。爽やかな笑顔の学生が外向的なのは想像がつくが、その笑顔は必ずしも誠実さという内面をそのまま表しているわけではない。



子どもの人格や能力、才能の形成に、親はほとんど関係ない(心理学者ハリスの研究)

 親から子への遺伝率は、音楽的才能が92%、執筆83%、数学87%、スポーツ85%など。発達障害(自閉症、ADHD)も80~87%が遺伝。遺伝の影響がきわめて大きい。

 親が辛うじて教えることができるのは言語(親の母語)だけ。それ以外に親の影響が見られるのは、アルコール依存症と喫煙。

 そうかといって、親は無力だというのは間違い。親が与える環境(友だち関係)が、子どもの人生に決定的な影響を及ぼす。だから親の一番の役割は、子どもの持っている才能の芽を摘まないような環境を与えること。

 ちなみに女性の政治家、科学者に女子校出身が多いのは、共学と違って校内で「バカでかわいい女」を演じる必要がないから、だそうだ。


2017年10月13日

マクドナルドで健康長寿


 あなたはバークシャー・ハザウェイを知っていますか?

 アメリカ中西部の会社だが、モノを作って売ったりはしていない。

その代わりコカコーラ、アメリカン・エキスプレスなどの株を大量に保有する「世界最大の持ち株会社」だ。

「オマハの賢人」ウォーレン・バフェットが会長を務める。副会長は弁護士出身のチャーリー・マンガー。2人は田舎の小さな繊維会社を時価総額3500億ドル、従業員30万人の企業に育て上げた。

いつもバフェットの陰に隠れがちなマンガーの本が邦訳された。投資に関する本だが、彼の人生論も随所で語られている。マンガーのような、並外れた胆力を持つ投資家になりたい。ページをめくってヒントを求めた。

「私の経験から言えることだが、いつも考え続け、本を読み続けていれば、働く必要はない」

 これは投資家という彼の職業に限ったことか、普遍的な真理なのだろうか。マンガーは毎日、新聞3紙と600ページの読書をするという。

「あらゆる電子デバイスを持ち、いくつものことを同時にしようとするこの世代は、ひたすら読むことに集中してきた(私や)バフェットほどには成功しないだろうと確信している」

 電子デバイスで「論語」や「ソクラテスの弁明」を読む人も、中にはいるだろう。でも日本の近郊電車で、人がスマホで見るのは、たいていゲームかSNSだ。

 新聞や本は、値段がつく程度に情報が編集されている。玉石混交のネット情報より、よほど時間効率がいい。わかっていても、手の届くところに電子デバイスがあると、ついそちらを見てしまう。

継続的かつ熱心に読み、考える。この積み重ねが、投資における複利効果のように、知識を雪だるま式に増やしていく。卒寿を過ぎたマンガーの実感だろう。


「私は食べたいものを食べる。健康に気を遣うことはない。したくもない運動をすることもない」

バフェット87歳。マンガー94歳。2人とも超がつく大富豪だが、依然としてマクドナルドのハンバーガーやコーラを好む。

そして、3度のメシより企業の財務諸表を読むのが大好き。

脂肪の塊を食べ、黒い砂糖水を飲んでなお、頭脳明晰であり続けるふたりの後期高齢者。バークシャーの企業価値は、2000年以降だけでも3倍になった。「好きなことをする」のが健康長寿のカギであることは明らかだ。

日々栄養バランスや添加物を気にするのは、凡庸な投資家の証。少しでもマンガーに近づくために、まずは不摂生から始めよう。



2017年10月7日

旅する投資家のモラトリアムな日々


火曜日 移送ボランティアで車いすのおじいさんを病院に送る

 車載リフトで障がい者を車いすごと乗せる福祉車両、彼らにとっての乗り心地は最悪。振動が直接、車いす越しに伝わる。元気な人でも、長時間乗れば病気になりそう。

 路面のいい幹線国道を選んで走り、マンホールを踏まないように蛇行し、目地段差では徐行する。

助手席に座る付き添いの娘さんと、後部座席の奥さんの会話。

「せっかく長生きしても、お父さんみたいになっちゃーねえ」

「ホント!」

 バックミラー越しに、認知症だというおじいさんを窺う。うつらうつら、目を半分閉じて、口は半分開いている。



木曜夜 隣町の公民館で、生活保護の子どもたちの学習支援

 この日担当した、小5のトウマくん(仮名)とは初対面。小学生は遊ぶべきと信じて、宿題に取り組む彼の邪魔ばかりしていた。

 生活保護世帯は母子家庭が多い。我々ボランティアに、彼らの家庭環境は知らされない。でも「去年お父さんが死んだ」、トウマくんが唐突に話し始めた。

「おばあちゃんと一緒に寝てた」「サイレンの音で起きたら、お母さんがお父さんに心臓マッサージしてる所だった」「救急車と、消防車も来た」「そうそう、そのシンキンコーソクってやつ」

 彼は10歳にして大変な経験をした。人に話せるということは、彼なりにその体験を消化しつつあるのだろう。



金曜夜 山岳部の後輩メイコさんと都内の中華料理屋へ

 去年、まだ学生だった彼女とネパール・アンナプルナ山群を一緒に歩いた。ゆっくり会うのは久しぶりだ。卒業後は、サービス付き高齢者住宅スタッフ、小学校の発達障害児支援員として働きながら、養護学校教師を目指している。

「小学1年生ぐらいだと、ほとんどの子がある意味『おかしい』。普通の子と障がいがある子、と分ける必要はないと思います」

 言われてみれば、自分にも自閉症の気がある。ADHDも病名ができる前は、多くの「活発で落ち着きのない子たち」だった。

世の中、白と黒ではくくれない。グラデーションだ。

 メイコさんは、本人のいない所で「天使」と呼ばれている。介護・福祉分野で働く人特有の、柔らかい物腰。マスコミには、ときどき猛獣のような女性記者がいた(失礼!でもホントです)。業界によって雰囲気が全く違う。

 天使でも猛獣でも、なりたい自分になれれば、それが一番・・・?!


肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...