「ミヤサカさんみたいな人を記事にしたい。ミヤサカさんで何回も連載が書けるけど、元同業者を取り上げるのはNG。だから、知り合いで似たような人いませんか?」新聞記者をしている友だちに聞かれた。
不肖、この私でも新聞記事になるの? かなりうれしい。
でも、私に似た人ってどんな人だろう。
思い当たるのは、会社を早期退職してフリーカメラマンになった人、東南アジアをウロウロしている人、翻訳家に転身した人、改めて学校に通い始めた人・・・
知っているのは、あいにく皆、元同業者たちだ。
退職後に移り住んだ町で、私は子どもやお年寄り、女性たちとボランティア活動でつながることができている。でもそこには、見事に中年男性の姿だけがない。みな会社に行っていて、それどころではないようだ。
私の山登り友だちは、20代30代でサラリーマン生活に見切りをつけて、けっこう自由に暮らしている。でも彼らは時代の先を行きすぎていて、記事にできないかも知れない。
会社を辞めようと思った数年前、身近にロールモデルとなるような人がいなくて困った。早期退職した人のその後を知りたくて、ネット書店や図書館を巡ったが、ほとんど収穫がなかった。
その点アメリカは、とうの昔に終身雇用が崩壊し、突然のレイオフで転身を迫られる社会だ。ポートフォリオワーカー、チャンクワーカー、ライフスタイルワーカーといった言葉もあり、複線的なキャリアを送る人の本が何冊も出ている。
ネットで取り寄せて、英語と格闘しながら1ページ1ページ読み進んだ。いま思い出すと、とてもワクワクする時間だった。
気がつけば、私の毎日から通勤時間がなくなって3年。投資家を生業にする自信がついてきた。
いや、ボストン・レッドソックス時代の松坂大輔投手の言葉を借りれば、
「自信が確信に変わった」
地方都市でぜいたくしなければ、夫婦2人のベーシックインカムは十分に賄える。今後、市場は再び暴落するだろうが、その時は回復するまで2~3年、有給の仕事を増やせばいい話だ。
それにしても、周りに同類がいない。孤独だ。
ぜひ似たような人を探し出して、記事にして欲しいと友だちに頼んだ。
先日、早期退職した同世代の友人が、ミャンマー全州を7か月かけてバイクで踏破し、帰国した。旅先で日本人に会うと、必ず「これからどうするの?」と心配され、欧米人には全員に「おめでとう!君みたいになりたいよ!」と祝福されたそうだ。
この対照的な反応は、ひとえに雇用の流動性の差だ。会社に雇われない人、こだわらない人が増えれば、日本はずっと居心地がよくなる。