2017年5月20日

ポスティングと女子寮


「海を見ながらポスティングしませんか」

 朝活で出会った師匠の甘言に誘われて、海辺の温泉町へ。

師匠はその道6年、雨の日以外の連日、あの町この町と配り歩いている。

 その数日前、予行演習を兼ねて、近所で寿司屋のチラシを配ってみた。両手を使わないと、チラシが郵便受けに入らない。でも片手は、地図とチラシの束で塞がっている。一軒ごとに玄関先で悶絶した。

 この朝、師匠に模範演技を示してもらった。

 ・・・なるほど。

さすが熟練の技。百聞は一見に如かず。目からウロコ。

さっそくマネすると、見事に片手で入った。小気味よくリズミカルに、とは行かないものの、かなり気分がいい。

初めての町に地図は必需品だ。歩いた道を赤く塗っていくことにした。地図がどんどん赤くなる。子どもの頃、住んでいた異国の街を歩き回り、地図を塗りつぶした遠い日の記憶が蘇る。

あの頃から、やることが何も変わっていない。

 慣れない様子で右往左往していると、地元住民に

「なにかの調査ですか?」

「にいちゃん散歩かい?」

などと声を掛けられる。

 この町は坂が多い。登るに従い急になる。商店街で見かけたお年寄りが、30分もかけてゆっくり登り返していく。

 さらに上には右翼の事務所があり、屋根に大きな日の丸が翻っていた。

 民家やアパートには空室が目立つ。人口減社会を肌で感じる。

たまにはマンションもあり、数十枚のチラシを一度に配れてうれしい。

 かれこれ3時間歩き、もうすぐ正午。空腹と暑さで意識もうろう、マンションと勘違いして、通用口から女子寮に侵入してしまった。

どうも様子が変だ。はたと気がついた。引き返そうとしたとたん、寮母さんと鉢合わせした。

「正面に回って呼び鈴鳴らせと書いてあるでしょ」

お小言だけで済んだのは、品行方正が服を着て歩いているような私だからこそ? そして、配っていたのがたまたま美容室のチラシだった。言葉巧みに、何枚か受け取ってもらった。

帰り道に冷や汗が出た。110番通報されなくてよかった。

失うものは何もないとはいえ。ブログ5回分のネタになったとはいえ。

師匠の話では、玄関に直接差し入れるタイプの郵便受けで、指を室内犬にガブリとやられる危険もあるという。

この世にたやすい仕事はない。




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