2016年12月22日

流動客調査員


 革ジャンの腕に腕章を巻き、師走の街角に立つ。

カチカチと、手にしたカウンターで人を数える。

その名も「流動客調査員」。

商工会議所が、昭和40年代から行っているこの調査。マンウォッチングができて日当も出るので、応募してみた。

学生のころ冬山でビバークし、報道カメラマン時代は立ちっぱなしで張り込みをした。私にうってつけのバイトだ。

割り当てられた場所は、駅から徒歩数分の銀行前。折り畳みイスが支給されたが、MBTを履いて6時間、ずっと立っていた。

なにぶん小さな街なので、すぐ知った顔に会う。この仕事、地元の人はやりにくいかも知れない。引っ越して2年の私でも、いろいろ出くわした。

そこを行く色黒の男は、ハニー。日本語教室に来るインド人だ。24歳、厳格な菜食主義者。虫も殺さぬ優しい顔立ちながら、今日はかわいい日本のガールフレンドを連れている。

 彼は私に気づかない。デートの邪魔をしては、とこちらも声を掛けずにいたら、目の前を3度も、行ったり来たり。こちらが透明人間になったよう。

 次に会ったのは、中学生のKくん。彼は、私がボランティアをしている学習塾の生徒だ。「鱈」「鱚」「鰈」、魚偏がつく漢字は次々書けるのに、英語はぜんぜんダメ。受験には向かないタイプ。

黒い制服姿で、おしゃれな美容室の前をウロウロしている。かなり挙動不審だ。私がじっと観察していても、まったくお構いなし。

そのうち、カットを終えた女性が出てきた。優しい笑顔は、お母さんらしい。

肩を並べて帰って行く、その後ろ姿を見送った。彼の家は、母子家庭だ。

午後3時、知らない男の子に「おはようございます!」と、あいさつされる。

すれ違いざま、別の子に「変なおじさん!」と言われる。

夕方、ボランティア仲間のおばさまが歩いてきた。今度は私に気がついた。伏し目がちに近づき、唐突に「忘年会出る?」と言って、そそくさと去って行った。

そんなにひと目をはばからなくても・・・

カウンターの数字を見ると、通行人は1時間平均で800人ほど。6時間で5000人が、それぞれの用事を抱えて、通り過ぎて行った。

道の奥にドンキがあるので、黄色いレジ袋を手に下げた人が多い。ここにシャンゼリゼや表参道の絢爛さはないが、道行く人の人生が垣間見れて、楽しかった。

調査の過去データでは、駅前の人出は年々、減少している。この夏、5階建ての商業ビルが閉鎖された。東京から転入してきた知人(3児の母)は、「駅前なのにパンツ1枚買えない」と嘆いている。


今日の調査を、活気ある街づくりに生かしてほしい。

やがて冬の陽が陰ると、人通りが途絶えた。最後の1時間は、寒さがこたえた。

風のない日でよかった。




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