東京で働く友人が、超満員の通勤電車(女性専用車両)で、一触即発の場面に遭遇した。10数分間に2度、別々の方向から罵声を聞いた。
「いてーよ、オバサン」
「ふざけんなババア、いてーんだよ」
圧死しそうなほどの混み方で、かなり不快を感じていたのだろう。でも、これが女子の口から出た言葉かと思うと、怖い。
ついでに思い出した。新聞社の編集局にいた頃、同期から聞いた話だ。
深夜、いよいよ最終版の締め切りが迫る時間帯。となりの部署から、言い争う声が聞こえてきた。女性デスクが電話越しに、取材現場の部下と口論している。
だんだん、口調が乱暴になる。ただならぬ雰囲気。
そして・・・ひときわ大きな声で、
「ク●して寝ちまえ!」 ガチャン!!
時に殺伐とするこの職場で働いて20年、百戦錬磨の彼も、思わずたじろいだという。
女性デスクとはその後、一緒に仕事をする機会があった。内心、かなりビビった。いざ会ってみれば、若輩の私にも気遣いを忘れない、いい人だった。
殺人的に混んだ電車内や、紙面の全責任を負う締め切り間際。そういった状況が、かくも女性を豹変させるのだろうか。
アイエンガーによると、通勤がもたらすストレスの蓄積は、解雇や離婚より健康を害する度合いが大きいという。カーネマンの研究でも、通勤は1日で最も不快な時間で、通勤時間が20分長くなると、失職の5分の1のダメージに匹敵するという。
これらはアメリカの話だ。マイカー通勤で、渋滞に巻き込まれるストレスを指しているのだろう。毎朝、乗車率200%の通勤電車に押し込まれる、日本人のストレス量は計り知れない。
私は比較的、恵まれていた。サラリーマン生活25年のうち、成田、仙台、バンコクではマイカー通勤。とりわけバンコクでは、ありえない専属運転手付き。福岡時代は、城址公園の中を徒歩で会社に通った。
東京本社に仕えた時も、遊軍やグラフ担当の時は自由裁量で働けた。シフト勤務で夜勤も多く、そういう日は朝の「痛勤」を免れることができた。
いま会社を辞めて、地方で福祉に携わっていると、現場で接する女子の雰囲気が明らかに違う。ひと言でいえば、女性らしくある。これまで「女性の優しさもひとつの戦略」と、肝に銘じて生きてきたが、危うくそれを忘れそうになる。
満員電車に乗る必要がなく、時間の流れも穏やか。ゆとりある環境では、彼女たちの口から「○▲×■!」などという言葉が発せられることもないだろう。
この安らかなる日々よ、永遠なれ。
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