2016年9月5日

木はどっちに倒れる


せっかくの田舎暮らし。晴耕雨読といきたいところなのだが、標高が高すぎて野菜が育たない。代わりに、晴れた日は木を切っている。

最初は、木に囲まれた暮らしは天国に思えた。そのうち、「昼なお暗い」「洗濯ものも乾かない」・・・どうも木が多すぎる、と結論した。

ひょろ長い夫が、細い木1本倒すのに悪戦苦闘。それを見た妻がひと言、「木が木を切ってる」。



新聞社にいた頃、インドネシアの森林違法伐採をルポした。

首都ジャカルタで、科学部のサトウ記者と待ち合わせる。彼とは新潟県中越地震で、自衛隊ヘリで一緒に震源の村に向かったことがあった。

プロペラ機を乗り継いで、ボルネオ島へ。マレーシア国境で四輪駆動車を借り、暗くなるまで山道を進む。集落に着いても宿はなく、民家の軒先で野宿する。

翌日から、道はさらに悪くなった。車を捨てて、村の青年のオートバイで奥地へ。路面の凹凸で体が宙に浮き、兄ちゃんの腰に抱きつく。

ほこりまみれで未舗装路を進み、ハエがたかる屋台で干からびた揚げ物とごはんを食べ、民家の軒先を借りて寝る毎日。

5日目、川にぶち当たる。救命胴衣をつけてモーターボートに乗り、急流をさかのぼる。水しぶきで、全身ずぶぬれになる。

ここでよくない知らせが届いた。「違法伐採の男たちは武装している」。我々も、自動小銃を担いだ国立公園レンジャーに護衛を頼んだ。

源流から、木材運搬用トロッコに乗って森に入る。最後は炎天下、トロッコの軌道上を延々と歩いた。

ジャカルタを出て7日目の午後。熱帯雨林の彼方から、チェーンソーの音が聞こえてきた。さらに進むと、木々が無残に横たわっている。

違法伐採の現場だ。

カメラを構える私を追い越して、サトウ記者が突進する。科学部は秀才タイプばかりで、彼ほど最前線で体を張る記者は珍しい。

半裸の男たちが、手に手にチェーンソーや斧を持っている。が、それを人に向ける気はないようだ。銃も見当たらない。

「もうすぐ木が倒れるよ。危ないからこっちに来なよ」

人相は悪いのに、以外に親切だ。

場所を移って安心していると・・・

 バキバキバキッ

20メートルはある大木が、我々めがけて降ってきた。


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