臨床心理基礎実習のマリ先生は、大学院の長というエライ人でもある。
講義の合間に、昨年度の入試の裏話をしてくれた。
「春期試験の受験者は全員落としたわよ。合格基準点以下だったから」
(多くの心理系大学院は、秋期と春期の2回、選抜試験を行う)
えっ…
今年の1年生は内部進学者が多く、学外から試験を受けて入学したのは、私とミキさんの2人だけ。他の受験生がみな不合格だったということは…
我々は、競争率6.5倍を突破したことになる。
「えっと、ぼく、なんで合格できたんですかね」
「あぁ、あなたは英語の成績がよかったみたいよ~」
そっか! フィリピン英語留学や、名古屋の予備校通いが実を結んだか。
たとえ流動性知能が経年劣化しても、社会人の資金力にものを言わせれば、現役の学生とも立派に戦えるのだ。
それにしても…
面接であれだけズタボロにされて、よく合格できたもんだ。
「ぼく面接で、〇〇先生や××先生に散々いじめられたんですよ」
「あー、人によっては圧迫面接みたいなことやるからね。私はやらないけど」
マリ先生が、ヘラヘラ笑いながら言う。
やっぱり、あれは意図的だったのか…
すると、隣でやりとりを聞いていたアユミさんが突然、かみついた。
「私は面接の後、ショックで寝込みました。選抜される側は、圧倒的に不利な立場なんですよ! 心理職を目指す学生には、心に傷を抱えている人もいるんです。あんな圧迫面接やって、学生の身に何かあったらどうするんですか ⁉」
アユミさんは、学内からの進学者。筆記試験は免除され、課されるのは面接だけだ。それでも、というか、だからこそ、というか、面接でのプレッシャーは私以上だったかも知れない。
「私も、面接が終わって外に出たら、泣くつもりはなかったのに、涙があふれて止まらなかった…」
他のクラスメートも、口をはさむ。
マリ先生、たじたじ。
「今日はとてもいい話し合いができました」
といって、チャイムが鳴るより30分も早く、講義を終わらせた。
来年の受験生は、我々みたいな目に遭わなければいいが…
大学教員の紹介ページを見ると、皆さん、全国各地の大学を転々としている。
マリ先生もまた、中途転入組だ。
「私の採用面接の時も、私よりずっと若い准教が意地悪な質問をしてね。アタマに来たから、学校の敷地にツバ吐いて帰ったわよ」
なんと勇ましい…
「こんな大学、絶対蹴ってやろうって思ったけど、数日後に『准教授ではなく、教授のポストを用意します』って電話で言われて…」
「教授という言葉に目がくらんで、今ここにいるってわけ」
そんなマリ先生も、摂食障害に苦しんだ時期があったという。
※登場人物は実在しますが、微妙に仮名です

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