2020年7月4日

飢えたオオカミ


一昨年の夏、バルコニーで本を読んでいたら、頭上でブンブン羽音が聞こえた。見上げるとスズメバチが、軒下に大きな巣を作っていた。

 ここは森の中だ。自然の営みに、人の方こそ歩み寄らなければ。

 ひと夏、スズメバチと同じ屋根の下で暮らした。

 そして今年、まったく同じ場所に、またハチの巣が・・・

以前、阿武隈山系の洞窟に潜った帰りに、森を歩いていてスズメバチに刺された。洞窟探検家ミゾさんが、私の腕に口を当て、毒を吸い出してくれた。

 どんなに危険な洞窟でも沈着冷静なミゾさんが、珍しく慌てている。ハチに刺されるって、そんなに大ごと? 後で調べてみたら、刺されて“アナフィラキシー・ショック”を起こすと、命に関わることもあるらしい。

そこで今年は、ハチさん側に退場いただくことにした。まずは100均で蚊取り線香を買い、ハチの巣の真下にダブルで置いてみた。

「ハチに・・・蚊取り線香?」

 自分だけ安全圏にいる妻が、窓の内側であざ笑う。でも2本焚けば人間でも煙いのだから、ハチだって一目散に逃げ出す、はず。

 翌朝。まるで何事もなかったかのように、彼ら巣作りに励んでいる。

 さすがに方法が穏便すぎた。さらなる強硬手段に訴えよう。

ホームセンターで、11メートル先まで届く殺虫剤「ハチアブ・ダブルジェット」と、高さ4メートルのはしごを買う。はしごを伝って巣に近づいたら、警戒中のハチに威嚇され、4メートル下に転落しかけた。

日暮れを待って、次は夜襲をかけた。フードを被ってはしごを駆け上り、ハチの巣に照明を当てて、必殺「ハチアブ・ダブルジェット」を噴射した。

ああ怖かった~

翌朝、クイックルワイパーの棒にほうきをくくり付けて、ハチの巣をはたき落とす。中は無人(無ハチ)で、バルコニーの床にべっとり蜜がついた。



ときどき林道の真ん中に、靴やサンダルが片方だけ置いてある。人けのない森でかなり不気味な光景だが、これはキツネの仕業だ。点在する山荘のバルコニーから、外履きを片方くわえて、持って行ってしまう。

そして近所に棲む若いキツネは、サイトウさんの飼い犬と仲がいい。リードにつながれた犬と野生のキツネが、2匹でサイトウさんの後ろをついて歩く。

“犬は、安逸な生活を送るが、束縛される

オオカミは、いつも飢えているが、自由だ”­___イソップの寓話より

 ハチの巣の駆除を業者に頼めば、お金がかかる。ワイルドライフに慣れた人なら、DIYで自ら手際よくハチ退治をする。

財力もDIYの技もない私だが、それでもここで暮らしたい。

 飢えても自由なオオカミでありたいのだ。
 
  (オオカミが無理なら、キツネかタヌキでも・・・)



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