2020年3月14日

スカイプの向こう側


 うつろな眼差し。

ろれつの回らない話し方。

 オンライン英会話125人目。H先生の挙動が、かなりおかしい。

 Skypeで対面するフィリピン人の先生は、プロフィール写真より太っていることが多い。でも彼女は病的にやせていて、とても老けて見えた。まだ20代のはずなのに。

 たぶん・・・薬物中毒者だ。

 ラリッている先生を正気に戻そうと、懸命に話しかけ、下手なジョークで笑わせようとした。レッスンが終わるころ、顔に生気が戻った。笑顔も出た。

 いったい自分は何をやってんだか。授業料まで払って。



 そのレッスンを受けたのは、八ヶ岳山麓のWi-Fiスポット。隣で地元のおばちゃんが、のんびりテレビでサスペンスものを見ていた。

そこに突然現れた、見慣れぬ中年男。やにわにタブレット端末を取り出して、画面に話しかけ始めた。妙な外国の言葉で・・・

ギョッとした顔で、私を見つめたおばちゃん。テレビを消して、そそくさと出て行ってしまった。

昼下がりの平穏をかき乱して、ごめんなさい。



「ひと頃、この町は麻薬中毒者だらけで、子どもの誘拐や、女性へのレイプが頻発していた。それが今じゃ、フィリピンでも一番安全な町に。ドゥテルテ大統領は偉大だよ」

大統領の地元、ミンダナオ島ダバオのジェサ先生が言う。

「麻薬犯罪者は殺せ」

ドゥテルテ大統領の過激な号令のもと、警官に射殺された麻薬密売人は、5000人以上とも言われる。

「日本は犯罪者を死刑にできるからいいよね。フィリピンはカトリック教国だからできないんだ。人権も大事だけど、凶悪犯罪を防ぐためには、死刑も必要だと思う」(ジェサ先生)

 同じミンダナオ島でも、別の町に住む先生は、「女性の一人歩きは危険だから、日が暮れたらもっぱら自宅でネットサーフィンしている」と言っていた。



「すぐ近くの火山が毎年噴火するし、地震も多い。子どもと一緒に家にいても、安心できないよ」と話す、ルソン島南部の先生がいた。

大型台風による休講や、停電による突然のレッスン中断も経験した。

 彼らフィリピン人の暮らしは、それなりに大変みたいだ。



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