安い・・・ いかなる基準を持ってしても。
奄美大島といっても、浅学の私には、歌手の元ちとせしか思い浮かばない。この際、行き先はどこでもいい。
平日の旅で、不便な成田空港発着のLCC利用。「金持ちではないが時間持ち」の私にはうってつけだ。
それにしても。いくら何でも採算割れでは?
この安さ、ほかに理由があるのではないだろうか。
出発前、現地の天気予報をチェックして初めて気がついた。6月下旬のこの時期、奄美地方は梅雨の真っ最中なのだった。
到着したら、いきなり雨。しかも半端な降り方ではない。その日、日本列島くまなく晴れなのに、奄美地方だけ「大雨洪水警報」である。
地図では目と鼻の先に見える沖縄は、すでに梅雨明け。連日快晴。
許せない。
レンタカーを借り、雨の島内を一周した。「暑くなくていいや」「2万円だし」「かえって緑がみずみずしいなあ」等々、負け惜しみを100回ぐらいつぶやきながら。これも人生だ。
ちょうど1年前にLCCのバニラエアが就航するまで、東京から奄美大島への直行便は1日1便のみ。東京や大阪から大型機がひっきりなしに到着し、大勢の観光客が押し寄せる沖縄とは対照的だ。
往復の機内では観光客より、おおらかさを身にまとった島の人が多い。地元紙に「飛行機代が安くなって、年1回の帰省を3回できるようになりました」という、喜びの声が寄せられていた。
空港から名瀬までの国道を外れると、海岸沿いの道はまるで私道。反対車線やバックミラーに、他の車を見かけない。山側の急斜面にはソテツや芭蕉が群生していて、地味ながらも南国らしい風景を満喫する。
路面に、褐色の泥水があふれ出している。それを見て思い出した。西隣の徳之島、東隣の喜界島は、以前に仕事で訪れた。奄美大島は初上陸と思っていたが、5年前に豪雨災害の取材で来ていた。
鹿児島を発った小さな取材ヘリコプターの風防ガラスに、大粒の雨が叩きつける。やがて洋上に、黒々とした島影。近づいて見ると、土砂崩れが建物や道路を押し流している。揺れる機内から撮影し、夕刊の締め切り間際に奄美空港に着陸。写真電送と原稿の吹き込みに追われ、気付けば再び離陸していた。滞在時間、1時間。
今回の旅で、奄美=雨、という印象をますます強くした。観光パンフレットには、陽光輝くコバルトブルーの海。どこかよそで撮ったに違いない。
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