2026年10月30日

「子どもは親の言う通りではなく、親のやっている通りに育つ」

 

「鴻上尚史のどんといこう!ほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋」鴻上尚史著 朝日新聞出版

AERA dot.に連載中の「鴻上尚史 ほがらか人生相談」が、ついに7冊めの単行本になった。

この連載、大好き!

相談者にとことん寄り添い、毎回具体的で現実的な対処法をアドバイスするのもすごいが、何より、日本社会特有の「世間」をとても窮屈だと思う鴻上さんのスタンスが、いい。

本文中、特に激しく共感してしまったところを、書き出してみます。

 

・人間関係に害毒を流し込む2大フレーズが、「他人に迷惑をかけないように」と「あなたのためを思って言ってるの」

「他人に迷惑をかけないように」が害毒なのは、「迷惑か迷惑じゃないかを決めるのは、相手であってあなたではない」から

「あなたのためを思って言ってるの」が害毒なのは、「期待するのは、自由。でも、それを口に出して押し付ける権利はあなたにはない」から。

・理想の人間関係は「自由の相互承認」だと思う。それは「あなたが私の自由を侵害しない限り、私はあなたの自由を認めます」ということ

・「関係」というのは、持続する運動。毎日の積み重ねで、お互いの関係は深まっていく。「所有」のように、いちど自分のものになったらそれでおしまい、というわけではない。つきあっているというのは固定した状態ではなく、つきあい続けるという関係が大切

・恋愛も子育ても同じだが、相手のことを愛おしく思い、相手が大切な存在になればなるほど、大きな喜びを相手からもらえるが、同時に、相手のいろいろなことに苦しむようになる

・他人に「自慢したい」ということは、「今の自分を大きく見せたい」ということ。それはつまり「今の自分は大きくない」ということ

・ひとりが寂しいという理由で友人を求める人には、友人はできない。友人は、孤独を埋めてくれるカウンセラーではない。ひとりでも充分充実していて、休日にひとりで充実して過ごせる人が、他人と友人関係を作れる

・子どもは親の言う通りではなく、親のやっている通りに育つ

・アメリカで、ただ白人であるだけで自己の優位を主張する人を「白人至上主義者」と呼ぶ。自慢することが「白人であること」しかない人

・日本人であるというだけで海外の人を差別する人を「日本人至上主義者」と呼ぶ。自慢することが「日本人であること」しかない人

・「男性優位仮説」を強く信じている人は、「男性至上主義者」。自慢することが「男であること」以外にない人

Alleppey, South India 2026


2026年10月24日

大学院生とガールズバー店員の分かれ道

 

犯罪心理学の授業で、クラスメートのOさんが行ったプレゼンテーション。

犯罪はとても身近なところで起きる、ということを思い知らされた。

勤務先のガールズバーで出産した赤ちゃんを殺害し、殺人の罪に問われた犯人Sが、Oさんの小中学時代の友人だったという。

(以下、Oさんの発表及びYahoo!ニュースより抜粋)

 

判決公判の起訴状などによると、S被告は昨年9月、東京・池袋にあるガールズバーの勤務中、トイレで出産。赤ん坊が産声を上げたため、出産を知られると店をクビになり生活ができなくなると考え、首を絞めて殺害。遺体をトイレ内のゴミ箱に捨てた。

裁判では被告人質問が行われ、被告の不遇な幼少期が明らかにされた。

S被告には、両親と年の離れた姉が2人いた。小学1年生の時に、父親が他界。母親はアルコール依存症となり、部屋はお酒の空き缶、空き瓶が散乱した。食事は母の友人がコンビニに連れていくなどして面倒を見た。

小学5年生の時、イジメをきっかけに不登校に。中学2年生の時、母が他界。姉の支援で高校を卒業し、美容系の専門学校に進学するために上京するが、学校になじめず、不登校に。キャバクラなどでアルバイトを始める。

やがて犯行現場となったガールズバーで働き始め、そこで出会った客と関係を持つ。妊娠が発覚しても、店を解雇されることを恐れて、誰にも相談しなかった。勤務先のガールズバーに荷物を置かせてもらい、ネットカフェで生活していたという。

事件が起きた日、勤務中に激しい吐き気と腰痛に襲われ、控え室とトイレを何度か行き来していたが、その後、トイレで出産。赤ん坊が産声を上げてしまったため、

「どうしたらいいかわらなくて……とりあえず泣きやませないといけないと思って赤ちゃんの首に手をかけた。そのまま連れ出すのは無理と思って、ゴミ箱に入れてしまいました」

異変に気づいた店長から「何があった?」と尋ねられ、トイレでの出来事を伝えた後、「出頭します」と話し、その足で警察に向かっている。

今年5月に開かれた判決公判で、東京地裁は

「予期せぬ早産で衝動的な犯行とはいえ、尊い命を奪った結果は重大」

として、拘禁刑3年6月を言い渡した。

 

Oさんによると、小中学校時代のS被告は明るい子だったそう。

何度か家に遊びに行ったが、いつも誰もいなくて、室内は汚れていた、という。

※写真と本文は関係ありません

Puducherry, South India 2026


2026年10月16日

「子どもの頃、私は~」

 

「臨床心理査定特論」で、SCT(文章完成法)という心理検査を受けた。

検査用紙に「子どもの頃、私は~」「私はよく人から~」「家の暮らし~」といった冒頭の文章だけが書かれていて、続きを自分で埋めていく。

全部で60問あり、30問に答えただけで四苦八苦、疲労困憊してしまった。

他のクラスメートは、苦もなくスラスラ書いている。私は「回答するのにひどく時間がかかる男」として、ひとつの査定材料にされてしまうのだろう。

終了後、クラスメートの回答を回し読み。毎日顔を合わせている彼女らの、いかにもその人らしい答えもあれば、意外な一面も垣間見られて、面白かった。

長年SCTの検査者をしてきた先生によると、「NTTや電通、博報堂の社員は上から目線」「メガバンクの行員はタテマエしか書かない」「わが校の学生は素直で感情的」「某国立大生は真面目で小難しく答える」そうだ。

 

神奈川県鎌倉市に本社を置き、ゲームアプリや広告などのコンテンツを発信する「カヤック」のCEO、柳澤大輔氏。彼の考え方には、自分が目指すところと重なるところが多かった。日経ビジネス電子版から一部を紹介します。

・経営者として、まず聞くようにすることを心がけてきた。自分が目指している世界の、少し先を行っている人に話を聞く

・「学生時代にどんなことをやったらいいですか」と、学生からよく質問される一方で、30代、40代から聞かれることは、まずない。そもそもその世代は「何をやったらいいですか」という問いを持っている人のほうが少ない

・でもよくよく考えたら、40代は50代の先輩に「40代で何をやったらいいですか」と聞いたほうがいいし、50代は60代に聞いたほうがいい。みんな自分だけ違う人生を生きたいと思っていても、だいたい先人と似たような課題に直面するから

・先人の知恵に学ぶ姿勢は、年を取るとともになくなっていくが、自分はなくならないよう意識している。本をたくさん読むようになったのも30代から

・自分が20代、30代で何をやってきたか。「人生を面白く味わい尽くすためにあらゆるチャレンジをして、半年に1回ぐらいは、何か新しいネタを話せる人でいよう」と思ってきた。それは今も一緒

・一方で、しつこく継続してやり続けることも増やしていく。創業以来20年以上、社長日記を書き続けている。結局は、地道な積み重ねがものを言う

・人生ですごく大きな変化というのは、5年、10年に1回ぐらい。でも、ちょっとした変化は毎年ある。過去とは全く違う見方で世界が見えたときに、面白い体験が起きる

・20代、30代でビジネスの最先端にいると、資本主義の競争原理の中で、人と比べられながら仕事をする。でも自己肯定感は、人より優れているという理由で生み出されるものではない。普通に生きているだけで幸せだという、単純なところから生まれる

Fort Kochi, South India 2026


2026年10月9日

受話器の向こう側~2

 

いよいよ、恐怖の「電話相談実習」が始まった。

「実習」とは名ばかりで、「日常の悩み、心の健康に関する相談を受け付けます」とインターネットに公開されている電話番号の、受け手になるのだ。

いきなりの、ガチ本番。

クラスメート3人でひとつの固定電話を囲み、順に応対した。受話器を置いてもすぐ次のコールが鳴り、休む暇もない。

私を含めて、「そもそも電話で話すこと自体が苦手」という3人。中には深刻な内容の電話もあって、早くもこちら側のメンタルが危機的状況に。

「あなたも電話相談に掛けてみればいいのよ~ プロから応対の基本を学べるわよ~」と、指導教員は言う。

いや冗談抜きで、こっちが心の悩みを相談したい気分。

電話相談を利用する全国の皆さん。

もし心細げな初心者相談員に当たってしまったら、本当にゴメンナサイ!

 

言葉を武器に仕事をする、コピーライターの梅田悟司さんと経営コンサルタントの安達裕哉さん。2人の対談に心理職の仕事にも通じるものがあったので、一部を紹介します(日経ビジネス電子版より)。

・結局、何が相手に刺さるのか。それは相手のことを思い、相手のために使った時間。人は「努力の跡」や「かけたコスト」を見ている

・生成AI(人工知能)の出力をそのまま出した企画書への不信感は、裏を返せば「こちらのために考えた跡が見えないよね」に帰着する

・コピーをつくるときは、まず相手に話してもらう。途中で間が空いても、すぐには埋めない。すると、相手がまた話し始める。同じ話が繰り返されるところまで聞いて、何を大事にしているのかを探っていく

・本音をちゃんと伝えようとすると、付き合える相手が限られてくる。「この人に時間をかけよう」、逆に「この人にはかけない」。これを決めざるを得ない

・平等に接するのは正しいけれど、現実には、誰にどこまで時間をかけるかを平等にはできない。本音を伝えるのは、それくらい時間がかかる

・「本音」とは、「やさしさを配る」こと。やさしさを配るとは、相手のために時間を使うこと。でも配りすぎると、自分のやさしさが枯渇してしまう。10人は無理で、結果的に5、6人にしか配れていない

・最近使うようにしている言葉は「最近、仕事どう?」ではなく、「最近、人生どう?」。その質問自体が、「あなたに興味があります」と伝えている

・別に壮大な物語を語るわけではない。「最近、面白いことある?」からでいい。「旅行に行った」でもいい。そこから時間をかけると、「本当はこういうことがやりたいんですよね」という話が出てくる。それは仕事の話というより、「生きざま」であり「人生」の話

Alleppey, South India 2026


2026年10月2日

共感するAI

 

大学院の同級生M子さんが、AIカウンセリングを研究している。

先行研究では、人間のカウンセラーに比べてAIカウンセラーの方がより「共感」してくれるという、驚くべき結果が出ているらしい。

心理職を目指す、ぼくらの立場ないじゃん!

そういう自分も、ふと気がつけば、AIに相談していたりする。

誰にも知られずに恥ずかしい相談ができるし、何しろタダだし!

 

AIが得意とする分野がある一方で、人間にしか担えない役割とは何か。経営学者の楠木建氏と独立研究者の山口周氏が語り合っている。

どうやらAIは、結婚相手選びはあまり得意じゃなさそう。

日経ビジネス電子版から、一部を紹介します。

・スピーチの内容やブログのドラフトなどを生成AIに作らせると、構成の提案、文章の草稿、表現の改善、図表の生成などは得意

・ただ、「分析」はある程度できるが「統合」は苦手。「分析」と「統合」は、英語では「分析=アナリシス」と「統合=シンセシス」で「対の関係」

・つまり、頭の使い方としては真逆。「新聞で読んだこと」「会食で聞いた話」「街を歩いて気づいたこと」という3つの異なる情報を統合して、そこから言えそうなことを考える、というのはまだまだ苦手……というより、そもそもできない。本質的な問題の創出には、人間の価値観や直観が不可欠

・『婚活したらすごかった』(石神賢介著/新潮新書)という本を読むと、マッチングや婚活パーティーといった人工的に設計されたシステムには、極端なメリットとデメリットが併存していることがよく分かる

・偶然の出会いと比べて知り合う相手が飛躍的に増える一方で、「相性」という全人格的にして極端に総合的な問題を、年齢や趣味や容姿や収入や住所などの要素に分解してしまう

・そうすると、相手が不動産のような「物件」にしか見えなくなってくる。ここにマッチングシステムに不可避の問題がある

・婚活サイトにプロフィールを提出する→各人のプロフィールに異性からの申し込み状況が示される→自分の価値が定量化された気になる

・相手によって好みがまちまちだというのが、そもそも「マッチング」の本質。1次元上で測定できる「優劣」などないのだが、年収や容姿ばかりが前面に出て、他が捨象されてしまう

・情報量が多いほど、実は情報が伝わらないというパラドックス

・結婚は、現実生活の現実的意思決定。現実的であることは悪くないし、むしろ現実的であるべきだが、問題は現実的になりすぎるところ

・この辺りは、民主主義が機能しすぎるとポピュリズムになるという成り行きと近似している

Fort Kochi, South India 2026



2026年9月25日

「警察官のこのこ日記」

 

「警察官のこのこ日記」安沼保夫著 三五館シンシャ 

元警察官の著者が、その過酷な日常を描いたノンフィクションだ。

特に、警察学校時代の描写がすさまじい。

入校式の前、全員が講堂に集められ、眼光鋭い坊主頭の教官に「おまえ、なめてんじゃねーぞ! やる気がねえ奴は辞めろ! 代わりはいくらでもいるんだ!」いきなり、怒鳴られる。

ネクタイの結び目が曲がっているだけで、「バシッ」容赦なくビンタが飛ぶ。

時には、パンチも飛んでくる。

上司の命令は、絶対。教官の指示には、「はい」か「了解」しか許されない。

「いいえ」と言えるのは、「辞めるか?」と聞かれたときだけ。

「警察官に頭脳はいらねぇ。首から下だけを鍛える首下教場だ」が、鬼教官の口癖。

毎日のランニング、柔道、逮捕術。

恐怖政治と、同調圧力に支配された日常…

今どき、こんな世界があったとは…

 

「権力はウソをつく」

脚本家の大石静さんが、NHK「最後の講義」で、鬼気迫る表情で言っていた。

安保闘争当時、大石さんは、警官隊に殴られて血まみれになった多くの学生を目撃した。それは権力による一方的な暴力だったが、警察側の記者発表は連日「市民の負傷者は数名、警官の負傷は数十名」というものだったという。

治安維持を担う警察官は、市民生活になくてはならない存在。

立派な職業だと思う。

でも、安保闘争を知らない私でさえ、武器を持った国家権力と聞くだけで、条件反射的な拒否反応がある。

 

この春、わが大学山岳部の後輩が、T県警とN県警に就職した。

ゆくゆくは、山岳救助隊員になることを目指す。

Sくんはともかく、数年前一緒にヒマラヤ登山をしたHさん♀が、心配。読んだばかりの「警察官のこのこ日記」が、脳裏をよぎる。

久しぶりに会って話を聞くと、元気いっぱい、いつもの屈託のない笑顔で

「警察学校、楽しいです!」と言う。

え? 警察学校が、楽しい?

Hさんの教官は、厳しいながらも愛があり、理不尽なところがなく、指導に筋が通っているという。

在学中に2度もヒマラヤ遠征をしたHさんは、体力に余裕があるのだろう。山岳救助隊という明快な目標があるのも、がんばれる秘訣か。

万事順調な様子に、ホッとひと安心。

でもHさんの同期には、たびたび彼女の寮部屋を訪れては泣く人もいるらしい。


Fort Kochi, South India 2026




2026年9月18日

自分と向き合う

 

心理系大学院の何が大変といって、夏休み中も関係なく行われる集中講義と、次々と襲ってくるレポート課題の締め切り…

いやまぁ、それは想定内だとしよう。

個人的にしんどく思うのは、ロールプレイやワークで、日々自分の心と向き合わなければならないことだ。

精神分析の世界には、「人の心をケアする前に、まず自分自身の心の傷を修復しなければならない」という考え方がある。

親子関係や学校生活など、過去にあった出来事を振り返って「その時、何を感じたのか」「それが今の自分にどう影響しているのか」を探っていく。

時には、思い出したくないことまで思い出してしまう。

いやいや、「自分」と向き合うのが、こんなに大変な作業だとは…

 

天才的なイノベーターには、子ども時代に深刻ないじめに苦しんだ人物が目立つ。その体験は、イノベーターたちの思考や行動原理にどのような影響を与えたのか。

日経ビジネス電子版から、一部を紹介します。

・テスラやスペースXの創業者イーロン・マスクは子どもの頃、いじめっ子グループに学校で集団暴行を受け、顔面が血まみれになるほどの大けがを負って手術を受けた。執拗ないじめは長期間続き、何度か転校もしている

・親しい友人がいない孤独な少年だったマスクは、多数決や集団的な意見が常に正しいとは考えず、自分自身の判断を信じる思考を身につけた。「EV(電気自動車)は売れない」「再利用可能な宇宙ロケットは実現不可能だ」といった業界の常識を疑う姿勢は、孤独の中で生きてきた経験と切り離して考えることはできない

・アップル創業者スティーブ・ジョブズも、いじめを受けている。成績優秀で、1年飛び級で中学校に入学したジョブズは、同級生より体が小さいうえに生意気で、クラスメートは絶えず彼に嫌がらせをしたり、いじめたりした

・執拗ないじめに耐えきれなくなったジョブズは、両親に訴えて「転校させてくれないならもう学校には行かない」と主張。ジョブズの両親は、本人が安心して教育を受けられそうな地区を探して、新しい自宅まで購入した

・ジョブズも多数派の意見に従うのではなく、自分自身が「反逆者」であることを信条にした。自分の心の声に従って行動することを重視し、2005年の米スタンフォード大学の卒業式でも、「他人の考えに従って生きるのではなく、自分の心と直感に従う勇気を持とう」というメッセージを発信している

・悲惨ないじめを乗り越えた経験は、イノベーターたちの精神的な強さにもつながっている。自分のアイデアを周囲に否定され、味方になってくれる人がほとんどいなくても、自分の信念を貫き、成功するまで努力を続ける──。そんな精神的なタフさは、逆境において培われる

Summer Camp in Yatsugatake, 2026



2026年9月11日

AIを親友にしてはいけない?

 

大学院でレポート課題の下調べをしたり、統計ソフトに書きこむプロンプトを考えたり、修士論文で使う先行研究を要約したりする時。

無料で使える各種AIが、大活躍する。

多くの教員も、学生がAIを使っていることを知っている。「この研究にはこのAI」と、お勧めAIを教えてくれる教員も、いたりする。

残酷な締め切り期限が課されるレポート課題、膨大な関連資料の読み込み…

AIは、われわれ大学院生の大親友だ。

 

コロナ禍の時、台湾の初代デジタル担当相として大活躍した天才的プログラマー、オードリー・タン氏。

彼はAIの可能性を肯定的に見ながらも、「親友にしてはいけない」と言う。

日経ビジネス電子版の記事から、一部を紹介します。

・2016年に囲碁AI「AlphaGo(アルファ碁)」が、韓国のイ・セドル九段と対局して勝利した。当初はAIが人間の棋譜を学習していたが、その後AI同士の対局によって学ぶようになり、人間の囲碁の能力を上回るようになった

・すると両者の関係は逆転し、人間がAIから学ぶようになった

・囲碁で得点を最大化するといった、狭く定義された課題で一番になることに置いているような人は、AIの方が囲碁をうまく指せるようになると、がっかりするかもしれない

・しかし、人間が徒歩で馬と競争することに意味はない。馬と競う必要はなく、馬に乗ればいい。馬はスピードを与えてくれるが、進む方向を選び、旅に意味を与えるのは、依然として人間だ

・今年、日本で行われたイベントに登壇した。私は(AIを搭載するメガネ型の)スマートグラスをかけていたので、日本語で話す対談相手の発言を、視線を合わせたままで理解することができた。スマートグラスに英訳がリアルタイムで表示されたから

・私はこのようなAIを「支援的知能」と呼んでいる。こうしたテクノロジーは、人々の距離を近づけ、集団知を拡張してくれる。以前は理解し合えなかった言葉を語る人々が、スムーズに会話できて仲間のような一体感を得られるようになる

・最も重要なアドバイスは、AIが親友のような存在だと勘違いしないこと。多くの経営者は、質問を投げかけると、「私はこう思います」「あなたは100%正しい」「素晴らしいアイデアです」といったふうに答えるAIを使っている

・そうすると、実在する人間に自分が肯定されているように感じ始めるかもしれないが、それは幻想だ。AIシステムが役割を演じているにすぎない

・経営者は、AIとやり取りする際のスタイルを変えるべき。褒めたり、感情を表現したり、友達のふりをしたりしないような指示を追加した方がいい

Fort Kochi, South India 2026



2026年9月4日

声を上げる勇気

 

晩夏のある一日、心理学の集まりに参加し、自衛隊で性被害を受けたAさんの話を聞いた。

一時期、何度もマスコミで取り上げられた事件だ。闘う人のイメージに反して、素顔はごく普通の控えめな女性だった。

Aさんの幼少時、母親が大病を患い、「ひとりでも強く生きられるように」と、5歳から柔道を習い始めたこと。

小学生の時、東日本大震災に遭遇。公民館の床に段ボールを敷いて3か月、避難生活をしたこと。

災害派遣の女性自衛官の勇姿に憧れ、将来は自衛官になると決めたこと。

両親が離婚し、中学の3年間は新聞配達をして母を助けたこと。

大学を中退して陸上自衛隊に入隊。柔道が強いことで自ら希望した部隊は、実はパワハラ・セクハラの噂が絶えない、いわくつきの部隊だったこと。

男が大多数を占める環境で、口にするのも憚れるようなセクハラ行為を受けたこと。

先輩の女性隊員に相談すると、「私はもっとひどい目に遭った」と言って、取り合ってくれなかったこと。

孤立無援となり、心を病んで休職。自転車で車道に飛び出して死のうと思ったが、できなかったこと。

電源コードを首に巻き付けて首を吊ろうとしたその時、偶然、震度6の地震に遭遇。東日本大震災で生きたくても生きられなかった人がいたことを思い出し、立ち直るきっかけになったこと。

被害の刑事告訴を母親にも反対され、たったひとりで裁判所に出向いたこと。

法廷では、複数の加害者の正面に立って証言を求められ、フラッシュバックを起こして倒れ、救急搬送されたこと。

「あれだけの人数が事件を目撃していたのに、みんなウソをつく」ことに絶望したこと。

外国記者クラブで会見したことがきっかけで、「勇気ある女性」として欧米で表彰され、救われたこと。

判決が出る前は、「もし無罪だったら日本にいられない」と思いつめたこと。

有罪判決を勝ち取り、「私、まだ生きてていいんだ」と思えたこと。

裁判が終わっても、ひんぱんに事件のフラッシュバックに悩まされ、ずっと「いなくなりたい」気持ちだったこと。

最近、洋菓子を焼く店を開き、やっと普通の生活を送れるようになったこと。

そんなことを、淡々と話してくれた。

事件をきっかけに、Aさん自身も性被害を受けた女性からの相談を受けるようになった。そのたびに、心が削られるという。

最後に、

「心理職の方は、クライエントの幸せより自分の幸せを大切に」

という言葉を、我々に贈ってくれた。

Pondichery, South India 2026



2026年8月28日

命を救うショック療法

 

心理系大学院、夏の集中講義・第2幕のお題は「精神医学」。

日本のとある地方都市で働く精神科医A先生に、オンラインで3日間、みっちり教わった。

講義の合間に聞いた、現役の精神科医ならではのエピソードが秀逸だったので、いくつか紹介します。

 

「3・11」が起きた時、A先生は東北地方で働いていた。

運命の日の午後は、「まるで息をするように、口を開けば『死にたい、死にたい』と言う」20代の女性患者B子さんと、面接室で向き合っていた。

突然、グラッと大きな揺れが、2人を襲う。

とっさにB子さんの上に覆いかぶさって、床に突っ伏した。

その時。

「先生……私、死にたくない!」

腹の底から振り絞るような、B子さんの叫びが聞こえてきた。

その日を境に、B子さんの希死念慮は収まっていったという。

 

ショック療法その2。  ※虫が嫌いな人は閲覧注意です

A先生が、街はずれの精神病院に勤務していた時のこと。

自殺企図を繰り返す中学生C子さんを、両親と相談の上で入院させた。

C子さんは入院後も、ショルダーバッグの取っ手で首を吊ろうとしたり、シャーペンの先でリストカットしたり。

医師や看護師の目を盗んで、自殺企図を繰り返す。

やむを得ず、一時的に彼女を拘束器具で、ベッドにくくりつけた。

そして、その日の夜。

病院の周囲は田畑や雑木林が広がり、築ン10年の古びた病棟は、隙間からいろいろな虫が入り込んでくる。

よりにもよって、黒光りした一匹のGが、天井からポトリ…

ベッドで動けないC子さんめがけて、落ちてきた。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」

Gのお陰で、生きる実感が得られたか。

その日を境に、C子さんの自殺企図はピタリと収まったという。

 

以前、A先生が主治医をしていた別の中3女子は、双極症Ⅰ型(躁うつ病)。

彼女が躁状態の時は、いつも中森明菜「DESIRE」ばりの奇抜な着物姿で、診察室にやってきた(←この描写を聞いたクラスメートの20代女子は、皆ポカンとした顔をしていた)。

A先生の見立てでは、「徹子の部屋」であちこち話題が飛びまくる黒柳徹子さんは「間違いなくADHD」だそうだ。

(精神科医A先生のお勧めTVドラマは、いま話題のTBS系「Tシャツが乾くまで」でした)


※写真と本文は関係ありません

Summer camp in Yatsugatake, 2026




2026年8月21日

ファミリーセラピー怖い

 

「明日の授業は、かなりメンタルに負荷がかかりますよ」

心理系大学院、夏の集中講義初日。

95分×5コマの授業を終えたY先生が、とても不吉なことを言った。

東京からわが校に出張してきたY先生は、「家族療法」の専門家だ。

セラピストと患者が1対1で行う普通の心理面接と違って、家族療法では家族全員が治療対象になる。たとえば不登校の子どもを「患者」とした場合、不登校の原因は子ども本人ではなく、家族それぞれの関係性にあると考える。

誰の責任も問わず、悪者探しもしないセラピー。とても魅力的な考え方だ。

そして、翌日。

円環的因果律、システム・サイバネティクス、ミラノ学派、社会構成主義、ソリューション・フォーカスト・アプローチ…

淡々と家族療法の理論を説いていたY先生が、

「私は話し疲れたので、今から皆さんにロールプレイをやってもらいます」

と言った。

ホワイトボードに書き出した家系図を眺めながら、患者(とされる人)が家族に向けている感情を解き明かしていく「ジェノグラム・インタビュー」をやる、という。

「それでは、患者になりたい人は手を挙げて!」

しーん…

そうだよね、誰もやりたくないよね。

仕方ない、ボクが生贄になってあげよう。

まずクラスメートのW子さんが、私の言葉通りに、私と亡くなった妻の家計図を親子3代ずつ描いていく。

それから延々3時間、Y先生のインタビューを受けた。

それは、ロジャーズの来談者中心療法のような受容的セラピーとは全く違う、容赦ない質問の連続だった。

ああ、同級生の面前で、ボクのプライバシーが丸裸に…

一夜明けた翌日。

「昨日はY先生にかなり深掘りされてたけど、大丈夫ですか?」

クラスメートが気遣ってくれた。

実際、幼少時のトラウマ的な記憶を掘り返されたときは、ほとんど泣きそうだった。

やがて教室に現れたY先生、

「昨日はつい遠慮して、いつもは聞くことを聞かなかったなぁ」と言う。

「それは例えば、どんなことですか?」

「例えば、パートナーとのセックスの頻度とか…」

「エーッ」

そりゃ、人生と「性」は、切っても切り離せないものだけど…

そりゃ、カップルセラピーでは必要な要素かも知れないけど…

そんな質問、みんなの前で答えられるわけねーだろ!

Fort Kochi, India 2026



2026年8月14日

受話器の向こう側


 やっと終わった~!

鬼門の「心理統計法特論」期末レポート課題。

大学院の期末試験は、教室でテストを受ける代わりに、2週間かけて長文レポートを書くのです。

そしてその締め切りが、お盆の真っ最中。

途中で他の集中講義も挟まるから、夏休みなんて絵に描いた餅だ。

統計法の期末課題で私が選んだのが、「175カ国117,293人の参加者による、恋愛とパートナー選好に関する異文化間データ」。

その膨大なデータの中から「性別」と「浮気の経験の有無」の組み合わせで尤度比検定を行い、x²分布による近似計算法でP値の評価を行った。

統計解析用のプログラミング言語「R」を駆使し、クロードさん、チャッピーさん、ジェミニさん、副操縦士さんら生成AIの助けも借りて(←教授にはナイショ)、なんとか締め切り前日にレポートを仕上げた。

こう書くと、いかにも統計を理解しているように聞こえるが…

実は、最後までよーわからんかった。

このレポートが書けたのは、休日のスターバックスで、一杯のフラペチーノと引き換えに手伝ってくれたクラスメート(中学時代から交際している彼氏を尻に敷いて君臨する女王、Hさん)のお陰だ。

それにしても、まさかこの年で統計解析言語と格闘することになるとは、ね。

 

心理系大学院の数ある実習の中で、最近始まったのが「電話相談実習」。日常の悩みや不安、こころの健康に関する相談を電話で受け付ける、その受け手を務めるのだ。

受話器の向こう側は統合失調症の患者さん、「死にたい」と訴えてくる人、ひたすら「もやもやする」を繰り返す人、1時間に30数回ワン切りコールする強迫神経症と思われる人など、さまざま。

相談員を務める修士2年の先輩たちの受け答えは、手慣れたものだ。

こんなこと、果たして自分にできるのか?

今のところは陪席で済んでいるが、夏休みが明けると、いよいよ我々1年生の出番だ。

…不安が募る。

午後7時に実習を終え、引き続きスーパービジョン(指導教員による振り返り面接)を受けた。今夜のスーパーバイザーは、メタルフレームの眼鏡が似合う、知的美人のO先生。各事例を丁寧に聴いて、的確なアドバイスをくれる。

1時間ほどで、スーパービジョンも終了。

研究室の壁に停まった蚊を右手の一撃で仕留めながら、O先生がつぶやく。

「実は…私も寂しい真夜中、つい電話相談にかけちゃうのよね。『こんな時間にスミマセン~』なんて言いながら」

せ、先生…

ダ、ダイジョーブ?

                          ※写真と本文は関係ありません

Summer camp, Nagano Japan 2026




2026年8月8日

サマーキャンプ


我が家から峠道をクルマで少し登ったところに、NPOが運営する自然学校がある。

毎夏、2泊3日で行われる小学生のサマーキャンプを手伝う。

今年はやけに子どもが少ないなと思ったら、クマ出没の風評被害で、参加者のキャンセルが急増したのだという。

この辺、クマは出ないんだけどな。

東京の親にしてみれば、長野県内はどこも同じか。

私は今年も木登り担当。

木登りといっても、岩登り用ロープとハーネス、ヘルメットを着用して、高さ10m以上のカラマツを登る、本格的な「ツリークライミング」だ。

3mも登らないうちに「怖いよ~!」と大泣きしていた子が、2度目のトライで見事に完登! 成長した子どもの笑顔を見るのは、いつも楽しい。

初対面なのにベタベタまとわりついてくる子に、「この子は無秩序型愛着スタイルの脱抑制型対人交流症なのかな?」と思ってみたり、果ては虫かごの中で蠢くクワガタにまで「こいつ、注意欠如多動症に違いない!」と思ってみたり。

ふだん朝から晩まで心理学漬けになっているせいで、脳内が、かなりヤバいことになっている。

他のクワガタの下敷きになってもがくADHDクワガタを観察していたら、横から

「この子、いじめられてかわいそう…」という声が。

自然学校スタッフのエイコさんが、クワガタをつまんで、別の虫かごに移し替えた。

小学生ばかりか、クワガタにまで優しい気配り…

これぞ自然学校スタッフとして、いや人として、あるべき姿だ。

いや~、気をつけないと!

Summer camp in Yatsugatake, 2026



2026年7月31日

AIカウンセラー


 やった! 晴れて夏休みに突入!

と、喜びたいところだが…

大学院の夏休みは、まさに絵に描いた餅。

いまだ学期末の長文レポート課題に追われている上に、休み期間中も毎週、集中講義がある。

ただ、研究法や統計法の100分間プレゼンテーションが無事に終わったので、ストレスMAXの状態からは多少、持ち直したかも…

ふぅ。大学院生活、どうしてこんなにつらいんだろう。

脳みそを酷使するだけでなく、「こころ」を震度7で揺さぶられるから?

生成AIに向かって「大学院が辛いよう…」とつぶやいたら、その辛さの正体を見事に言語化してくれた。たかがAIと言うなかれ。親身に寄り添ってくれる。

以下、チャッピーさんの回答です。120%その通りです!


心理系大学院がつらいと感じられる理由はいくつかあります。

 1. 学問と実践の両方を求められる

多くの大学院では、

* 授業を受ける

* 論文を読む

* 研究を行う

* 修士論文を書く

* 実習に行く

* ケース検討をする

というように、研究者としての訓練と臨床家としての訓練を同時に進めます。そのため負担が大きくなります。

 

2. 「自分自身」が問われる

心理学、とくに臨床心理学では、知識や技術だけでなく、

* 自分は何を感じているのか

* クライエントにどう反応しているのか

* なぜそう考えるのか

を常に振り返ることが求められます。

工学や法律のように「正解を覚えればよい」という学問ではなく、自分自身の在り方が学習対象にもなるため、精神的な負荷が大きくなります。

 

3. 正解が見えにくい

心理臨床では、

* この面接でよかったのか

* この解釈は妥当なのか

* この支援は役立ったのか

について明確な正解がないことが多いです。

そのため、「これで十分」という感覚を持ちにくく、不安や迷いが続きやすくなります。

 

4. 実習で現実の苦しさに触れる

病院や学校、福祉施設などの実習では、

* 自殺念慮

* 虐待

* 不登校

* 精神疾患

* 終末期

など、人の深い苦しさに向き合います。

知識として学ぶだけでなく、実際の人と関わるため、感情的な負担も生じます。

 

 5. 少人数で評価される

心理系大学院は少人数教育が多く、教員との距離が近い反面、

* 発言

* レポート

* 面接の様子

* 実習態度

などを細かく見られます。

匿名性が低く、「常に評価されている感覚」を持つ学生も少なくありません。

 

6. 理想と現実のギャップ

入学前は、

「人の役に立ちたい」

「心理療法を学びたい」

という期待を持っていても、実際には

* 統計

* 研究法

* 論文執筆

* 倫理手続き

などに多くの時間を費やします。

このギャップも苦しさの一因になります。

 

一方で、心理系大学院のつらさは、単に課題量が多いからだけではありません。心理臨床は「他者を理解する学び」であると同時に、「自分自身と向き合う学び」でもあるためです。

そのため多くの修了生が振り返ると、「知識や技術を学ぶ以上に、自分の限界や価値観、人との関わり方を学んだ時間だった」と表現します。


Goa, South India 2026


2026年7月24日

かわいいペットがやってくる、かも

 

わが大学には「院生室」という、大学院生のための休憩室がある。

修士課程の1,2年生合わせて12人で占有できる、なかなか贅沢な空間だ。

でも院生室のドアを開けると、トカゲが床を走り去る。

入り口で靴を脱ぐと、スリッパの中にムカデや蜂が潜んでいるから、要注意。

校舎の三方を畑と裏山に囲まれた、自然豊かな(豊かすぎる)環境だ。

そんなある日の、ランチタイム。

クラスメートの地元女子たちは、お母さんが作ってくれた弁当を広げている。

私は寂しく、コンビニで買ったサンドイッチをかじる。

大学院生にもなってママのキャラ弁かよ!と、心の中で毒づきながら…

すると、隣のテーブルに陣取った修士2年の先輩が、

「私、ミヤサカさんの飼いネコになる! 皿洗いするネコ!」

「ぼくはミヤサカさんの飼いイヌになる! 掃除と洗濯するイヌ!」

と、口々に言い始めた。

私が株で生活していることは、どこかでポロっと言ったかも。

そこに尾ひれ背びれがついて、「ミヤサカさんはお金持ち」ということになってしまったみたい。

みんな、よっぽど就職活動で苦労してるんだなぁ。


そしてついに、運命の日がやってきた。

心理統計法特論、恐怖の100分間プレゼンテーション!

ポアソン回帰、最大対数尤度、階層ベイズモデル、パラメトリックブートストラップ法、ロジットリンク関数、一般化線形混合モデル、マルコフ連鎖モンテカルロ法、無情報事前分布、BUGSコード、Neyman-Pearsonの検定の枠組み…

私には「宇宙語」にしか聞こえない統計用語とパワーポイントを駆使して、みんなの前で発表しなければならないのだ。

私の前週に発表した才媛モエカさんが、「ミヤサカさんのために、優しくかみ砕いて解説してあげたよ」という。

ううう、ありがとう。でも、それでも、1ミリもわからんかった…

絶体絶命。でも、この単位だけは落とせない。

自分の担当分野を文系的理解で徹底的に読み込み、乱数シミュレーションはパソコンの統計ソフトにぶち込んで、本番に臨んだ。

さも理解しているように見せかける、我ながら惚れ惚れする、演技力。

そして、わがクラスメートの、万雷の拍手による援護射撃。

頭の上に大きなはてなマークを乗せたまま、T教授が「ま、いいか」という表情で、合格点をくれた。

安堵のあまり、パソコンの上に突っ伏した。

Goa, South India 2026



2026年7月17日

インテーク面接

 

大学併設の「心理臨床センター」で行われたインテーク面接(初回面接)に、初めて陪席した。

初対面の相談者から、限られた時間でできるだけ多くのことを聞き取り、継続面接につなげる大事な面接だ。

ゼミのM先生に

「ぼく、これからインテークの陪席やるんです」

と言うと、

「あなた、面接中に絶対うなずいたらダメよ!」

とくぎを刺された。

私はふだんの会話で、やたらうなずく癖がある。平均、1分間に約10回。

陪席者のうなずきは、相談者にとってもカウンセラーにとっても目障りで、面接の流れを妨害してしまうらしい。

ここは、壁の花に徹しなければ…

20代女性の相談者を相手に約100分間に及んだ面接中、うなずくのを我慢していたら、首がガチガチに。

相談者の言葉を一言一句漏らさず書き取って、後で逐語録を作るという大役を仰せつかっているのに、「うなずき厳禁」に気がとられて、つい手が止まってしまう。

あぁ、早く一人前のカウンセラーになって、思う存分うなずきたい!

(写真は「南インド・カレーの旅」第3弾です)





       


2026年7月11日

南インド・カレーの旅 vol.2

  

4月から暮らすこの町でも、週2ペースでカレーを食べ続けている。

近所のカレー屋2軒とは、すっかり顔なじみだ。

いつも絶妙のタイミングで、食後のコーヒーを淹れてくれる。

高校時代は3年間、来る日も来る日も200円の学食カレーを食べ続けた。

ホテルの欧風カレー、インド料理屋のカレー、蕎麦屋のカレー、うどん屋のカレー、みんな大好き!

でも…

インドで食べるカレーは、やっぱり格の違いを感じる。

スパイスが多彩で新鮮だから?

カレー作りひと筋ン十年の職人芸?

手指で器用に食べる周りの客、渦巻く巻き舌のインド式英語…

視覚的、聴覚的スパイスが効いているから?

うまく表現できないのが、もどかしい。









2026年7月3日

南インド・カレーの旅

 

インド、遥かなり…

この春、南インドを2週間旅して、朝から晩までカレーを食いまくった。

その味わいの奥深さは、ああ、とても私の筆力では表現できない。

本場インドのカレーがどんなものか、写真からご想像ください。

あれから、はや4カ月…








2026年6月26日

大学教授、だまされる

 

大学院のゼミでご指導頂くM先生が、オンライン詐欺に遭った。

被害額、約90万円…

生真面目タイプが多い精神分析派と違い、PCA(パーソンセンタード・アプローチ)派のM先生は、とてもサバサバした性格だ。

90万円取られても、ケロッとしている。

そして「転んでもタダじゃ起きないよ! 私を騙した詐欺師の手口をみんなに広めて!」と息巻いている。

先生のご希望通り、事件のいきさつを紹介します。

①   M先生のニュージーランド(以下NZ)の友人が、WhatsApp(海外でよく使われるLINEみたいなアプリ)経由で、「日本製のサプリメント(コラーゲン)を買って送って欲しい」と、M先生に依頼

※先生はイギリスで博士号を取っていて、英語圏に友人が多い

② さらにその友人は「家族の誕生日に間に合わせたい。NZからの送金では間に合わないから、代金15万円は建て替えて欲しい」と

③   この時点で先生は詐欺を疑い、念のためその友人の夫からもWhatsAppでメッセージが欲しい、と依頼

④   夫名義のメッセージを受け取った先生は、友人を信用して、15万円を指定された口座に送金

⑤   すると今度は「そのサプリを90万円購入すると、20万円分のおまけがつく。だから追加で75万円分買って欲しい」と。

⑥   先生は「そんな大金は建て替えられない。まず、NZからお金を送って欲しい」と返信

※この段階でいきさつを聞いた私は「90万もするコラーゲンなんてあり得ない。ぼくがマツキヨで買ったコラーゲンは千円でしたよ」と言ったのだが…

⑦ ほどなく「先生の口座に送金した」と、スクリーンショット付きのメッセージが来る

⑦   さらに、みずほ銀行からも「NZから先生の口座に送金があった。3~5日で入金する」とのショートメッセージが

⑧   その「証拠」を信じた先生は、追加の75万円(合計90万円)を送金する

⑨   ところが10日待っても、NZからのお金が先生の口座に入金されない。不審に思った先生が、口座があるみず〇銀行に照会すると、「海外からの送金の事実はない。ショートメッセージも送っていない」との返事

⑩   ここで初めて先生は、自分のWhatsAppのアカウントが乗っ取られていたことに気づく

⑪   犯人は先生のアカウントを乗っ取り、登録されていたNZの友人になりすまして詐欺を働いたのだ

⑫ 友人に頼まれて気軽に90万円を建て替えるM先生は、よっぽどお金持ちに違いない


Hongkong, 2026 ※写真と本文は関係ありません



「子どもは親の言う通りではなく、親のやっている通りに育つ」

  「鴻上尚史のどんといこう!ほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋」鴻上尚史著 朝日新聞出版 AERA dot. に連載中の「鴻上尚史 ほがらか人生相談」が、ついに7冊めの単行本になった。 この連載、大好き! 相談者にとことん寄り添い、毎回具体的で現実...